イタリア政権 欧州統合の重責忘れず - 朝日新聞(2018年6月6日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13527669.html
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政治の混迷が続いたイタリアで、やっと新政権が発足した。3カ月前の選挙で第1党に躍り出た「五つ星運動」と、第2党の「同盟」が連立を組んだ。
主に左派が支える「五つ星」と、反移民を掲げる右派政党である。この一見、奇妙な組み合わせを生んだものは、国民の間に広がる欧州連合(EU)と既成政党に対する反感だ。
巨額の債務をかかえるイタリアに、EUは財政の引き締めの圧力をかけている。税や年金など国民の暮らしに影響が深まるなか、旧来の政党は明確な打開策を語ることができない。
その鬱屈(うっくつ)を打ち破り、変革をもたらすとする宣伝で、両党は勢いづいた。理念よりも、大衆人気に乗じたポピュリズム政権との見方がつきまとう。
新政権は、この国が直面する現実と責任を見失わないでもらいたい。欧州の通貨ユーロからの離脱はありえないし、財政再建の努力も続けるほかない。
ユーロ圏第3の経済大国として、ドイツやフランスと共に、欧州の統合をすすめる先導的な国であり続けてほしい。
EUの側も反省点は多い。イタリア国民は本来、他の国々と比べ、欧州人としての意識が高い。それをここまで反EUに追いやった財政政策には、ひずみがある。EUは債務国への圧迫の見直しをするべきだろう。
この3カ月は、「五つ星」と「同盟」にとって、政権運営を引き受ける現実の厳しさを学ぶ期間になったと考えたい。金融市場の不安を受けて、五つ星の党首は「反EU」を語る口調をやわらげざるをえなかった。
この国での新興政党のブームは、直近の記憶がある。
1990年代、マフィアによる判事らの暗殺が相次ぎ、議員数百人が汚職で検挙された。その異常事態を背景に実業界から現れたのが、中道右派を率いるベルルスコーニ氏だった。
しがらみ政治を非難した新鮮さが国民に受けたが、初選挙で勝った後は数々の汚職や事件を重ね、約束した構造改革は果たせぬまま国力は低下した。
今回の新政権がもし、また利己的な政治に走れば、政治や財政の立て直しは先送りになり、国民の失望は深まるだけだ。
EUや移民など、問題のありかを国外に求めるのは、どの国の政治家も使う手法だが、その陰には大抵、国内の失政が絡んでいる。その積み重ねが危険なポピュリズムの連鎖を招く。
一時的な人気取りに走るのではなく、大衆のための本当の改革を断行できるか。イタリア政治は、正念場を迎えている。