牧太郎の青い空白い雲 /671 加計も、日大も「危機管理学部」なんてよく言うよ! - サンデー毎日(2018年5月29日)

https://mainichi.jp/sunday/articles/20180528/org/00m/070/003000d
http://archive.today/2018.05.29-060149/https://mainichi.jp/sunday/articles/20180528/org/00m/070/003000d

「危機」は突然やって来る。どこからでも、誰にでも「危機」はやって来る。
週刊誌の関心事は3S(政治・セックス・スポーツ)!とされていた時代があった。今は新3K(経済・健康・孤独)とも言われるそうだ。金儲(もう)け、長生き、ステキな一人暮らし……を書けば、『サンデー毎日』は売れる。
しかし考えてみると、この新3K、煎じ詰めると「危機管理」である。誰にでもやって来る「貧乏の危機」「がんの危機」「孤独死の危機」に立ち向かう知恵である。
相変わらず「不倫もの」も歓迎されるが、それは「セックス」ではなく、なぜ不倫がバレたのか? 不倫話で誰が儲けているのか?「不倫の危機」が売り物である。
つまり、我々は週刊誌で新3Kの「危機管理」を学んでいるのだ。

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週刊誌がそのくらいだから「危機管理」が学問になってもおかしくない。
某大学の「危機管理学部」の案内書にはこう書いてある。
【社会のリスク・危機に迅速に対応する知識を学ぶ「危機管理システム学科」、持続可能な地球環境の保全と環境教育について学ぶ「環境危機管理学科」、人の健康と生命を守るための知識と技術を学ぶ「医療危機管理学科」、工学的な技術と航空機について学ぶ「航空技術危機管理学科」、ヒトと動物の適切な関係を学ぶ「動物危機管理学科」の5つの学科で構成されています。これらの学科が連携し、社会を、そして地球を助ける危機管理の専門家を大切に育てています】

 ご立派である。

でも、よく読んでみると環境学、医学、航空学、動物学などという従来の学問とどこが違うのか? 疑問だ。いま流行(はや)りの「危機管理」という言葉を使っているだけではあるまいか? ともかく胡散(うさん)臭い。
調べてみると、2018年度、この大学の危機管理学部は定員300人なのに、入学したのはわずか146人。半分にも達しない。

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この「危機管理」が売り物の大学は、「千葉科学大学」である。西日本を中心に4法人、21の教育施設を持つとされる、例の“アベ友”、加計(かけ)学園グループが2004年に、初めて首都圏で開いた大学である。
開校に至る「不透明な経緯」はいまだ解明されていないが、千葉県銚子市加計学園に市有地9・8ヘクタールを無償貸与した上、92億1500万円の補助金を提供して誘致した。
銚子市の年間予算は約240億円である。その年間予算の40%近いカネを「危機管理の大学」に投じたことになる。しかも、加計グループを応援した補助金のかなりの部分が市の借入金。銚子市民は、加計グループのために多額の借金をして、2025年まで返済を続けなければならない。
「次代を先取りして新しい取り組みに挑戦し、社会で活躍できる実践的な人材育成を目指す」と言うが、学生がどうしても集まらない。つまり、人気がないのだ。

当然、授業料収入も減る。

私学補助金の金額は収容定員に対する在学者数の割合を示す「収容定員充足率」で決まる。17年度の危機管理学部の充足率は71%で、大学全体として今年の補助金は前年から約3500万円ダウンしている。「危機」である。銚子市民も「危機」である。

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加計学園を真似(まね)た!とは言わないが、天下の日本大学も「危機管理学部」を16年春に開いた。「オールハザード・アプローチの視点で、多様な危機を理論と実践の両面から追究します」
こちらは、危機管理の最前線で活躍してきた法務省国土交通省警察庁など官公庁出身の実務家教員が教壇に立ち、実績を上げているという。
が、例のアメリカンフットボールの“殺人タックル騒動”である。まず謝らなくてならないのに、日大の前監督は他人事(ひとごと)のように振る舞い、謝っても相手の大学名「かんせいがくいんだい」を「かんさいがくいんだい」と発言する始末。
「何一つ危機管理ができていないのに、一体何を教えるんだ」「危機管理学部がある日大だけど、危機管理対応ができていない日大」と笑われる。はっきり言って、日大の殺人タックル騒動は「危機管理学」以前、人間学の範疇(はんちゅう)だ!

◆太郎の青空スポット
砂の世界旅行
鳥取砂丘の一角にある「砂の美術館」で「砂で世界旅行・北欧編」が来年1月6日まで開催中。北欧の大自然、神話の世界、アンデルセン童話の人魚姫……。「砂」を素材にした彫刻は世界でここだけだろう。砂丘では天気が良ければ、日本海に沈む夕日の絶景が見られる。0857―20―2231

まき・たろう
1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある。