(余録)「わるいことは罪だからするな… - 毎日新聞(2018年5月25日)

https://mainichi.jp/articles/20180525/ddm/001/070/123000c
http://archive.today/2018.05.24-211134/https://mainichi.jp/articles/20180525/ddm/001/070/123000c

「わるいことは罪だからするな、よいことは無駄だからするな」はイタリアのことわざ。「世界ことわざ大事典」で伊文学者の須賀敦子(すが・あつこ)さんが「シニックで、いかにもイタリア人らしいことわざ」と評していたこと政治についても「演奏家はかわっても、音楽はいつも同じ」と冷笑的である。だがそこに反汚職環境保護などを掲げ、「政治家たちよ、降参しろ!」と既成政党の政治の打破を訴えて乗り込んだのが新党「五つ星運動」だった。
その後ローマ市長も当選させた同党は、各国で高まるポピュリズム大衆迎合主義)のイタリア版と見られていた。それが反移民を掲げる極右の政党と連立を組み、法学者のコンテ氏を首相に指名して近く新政権を発足させるという。
この話が世界中に不安まじりで広がったのは、欧州連合(EU)発足時からの基軸国で欧州統合に懐疑的な政権が生まれることになるからだ。金融市場への影響や、ハンガリーなど東欧での反移民の動きへの接近を心配する声もある。
経済ではEUが求める財政規律を拒み、大型減税や低所得者への所得保障を約束する新政権である。さてそれで巨額の財政赤字はどうするのか。「言うとするのあいだには大海原(おおうなばら)」も、この手の約束に慣れたイタリア人のことわざだ。
対露制裁の解除など外交的にも独自色を打ち出している連立両党だが、当面は息をのんで見守るしかない新政権の一挙一動である。こんなことわざもある。「バラなら咲くだろう、イバラなら刺すだろう」