(余録)「焼いてしまおうか」と英国首相チャーチル… - 毎日新聞(2018年5月24日)

https://mainichi.jp/articles/20180524/ddm/001/070/150000c
http://archive.today/2018.05.24-002912/https://mainichi.jp/articles/20180524/ddm/001/070/150000c

「焼いてしまおうか」と英国首相チャーチル。「取っておけばいい」。ソ連首相スターリンが答えた。卓上の紙にはチャーチル手書きの東欧分割案とスターリンの同意を示すチェックマークが記されていた。
第二次大戦後の東西両陣営の勢力範囲をめぐる1944年秋の会談である。東欧諸国民の戦後の運命を決めたメモ書きを今誰もが見られるのは英公文書館が保管しているからだ小林恭子(こばやし・ぎんこ)著「英国公文書の世界史」中公新書ラクレ
さすがのチャーチルも後ろめたかったようだが、歴史の真実はメモ1枚の形で後世に残された。こちらも後ろめたさからなのか。すでに「廃棄した」と答弁し、その答弁に合わせて実際に廃棄を進めた記録約1000ページの出現である。
むろん改ざん前の決裁文書約3000ページと共に国会に提出された財務省森友学園との交渉記録のことだ。提出にあたり財務省は、国会答弁とつじつまを合わせるため文書改ざんばかりか、記録の廃棄まで行ったことを明らかにした。
提出した文書は職員が手控えに保存していたもので、記録廃棄のいきさつは改めて調査して報告するという。文書には首相の妻安倍昭恵(あべ・あきえ)氏付の政府職員が理財局に土地貸付料の優遇措置について問い合わせた記録などが含まれていた。
もともとウソを許さぬための公文書を、ウソに合わせて改ざん・廃棄した近代国家のオキテ破りはどんな組織病理がもたらしたのか。財務省という国家中枢を腐らせたものの正体は今こそ見極めねばならない。