(大弦小弦)石垣島出身でハンセン病回復者の上野正子さん… - 沖縄タイムズ(2018年5月22日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/255475
https://megalodon.jp/2018-0522-0913-46/www.okinawatimes.co.jp/articles/-/255475

石垣島出身でハンセン病回復者の上野正子さん(91)は78年間、鹿児島県の星塚敬愛園で暮らす。ハンセン病市民学会で来県し、弟夫妻との交流を楽しんだ(20日付本紙)

▼入所は13歳。既に県内には二つの療養所があったのに、親族会議で「沖縄で診察させるな」と鹿児島行きを命じられた。隔離と排除の国策が生む差別は本人だけでなく、家族や親族にも容赦なく向けられた

▼入所者の故清さんと婚姻届を出した日、園に断種手術を強いられた。退所は認められず、両親の死に目にも会えない。人間として生きたいと1998年、国賠訴訟最初の原告13人の1人になった

▼敬愛園に正子さんを訪ねたのは2001年の勝訴判決後。見せてくれた家族からの電報には「姉さん、孤独で苦しい人生だったね」「堂々と石垣島に帰ってきて」。その夜、「待っている」との言葉をもらった喜びを何度語っただろう

▼明け方まで取材が続く中、認知症の夫清さんが何回か起きてきて私をじっと見た。「見知らぬあなたが、私らを連行に来た警官に見えるのかも」

▼今回、正子さんは弟との記念撮影を一瞬ためらった。「弟は会社代表なのに、私と写って迷惑が掛からんかね」。堂々と生きると宣言した正子さんにも、受けた差別の傷が根深く残る。「安心して」と言える社会にしなければと、心底思った。(磯野直)