子どもたちへ 火垂るとだるまの教え - 朝日新聞(2018年5月17日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13497127.html
http://archive.today/2018.05.17-001410/https://www.asahi.com/articles/DA3S13497127.html

改ざん、うそ、女性蔑視、開き直り――。自らは恥ずべき行いを重ねる一方で、子どもには「道徳」を説き、ひとつの鋳型にはめようとする。
そんな最近の政治家や官僚の対極を生きた2人が、この春、相次いで鬼籍に入った。
おととい「お別れの会」が開かれたアニメ監督の高畑勲さん(享年82)、そして絵本作家のかこさとしさん(同92)だ。
心にしみいる作品を、半世紀にわたって子どもたちに届け続け、多くの大人も魅了した。
原点になったのは、両者ともに戦争体験である。
終戦時に9歳だった高畑さんは、空襲で家族とはぐれ、町をさまよった経験をもつ。その強烈な記憶が「火垂(ほた)るの墓」(1988年)などに反映された。
ただし、情緒に訴えるだけの「反戦映画」にするつもりはなかったという。
心したのは、事実を「淡々と客観的に」描くこと。見る人には、年齢を問わず、なぜ当時の日本社会がああなってしまったのか、自分の頭で考えてほしいと願った。高畑さんはそれを、これからの時代を切りひらくための「自由な知性」と呼んだ。
異論を排し、大勢に流れてしまいがちなこの国の危うさが、常に念頭にあった。
かこさんもまた、論理や思考を重んじた人だった。
軍国少年で軍人を志した。19歳で敗戦を迎え、誤った戦争をなぜ正義と思い込んでしまったのか、自問することから出発した。化学工業の会社に勤めるかたわら、子どもの勉強の面倒を見たり一緒に遊んだりして、生活の苦しい家庭を支えるセツルメント運動に飛び込んだ。
各地の伝統玩具がモチーフになっている「だるまちゃん」シリーズをはじめ、歴史、経済、生命、宇宙まで、創作は幅広い分野に及ぶ。多くの研究資料を集め、「20年先も通用するものを」という見通しと責任感をもって紡ぎ出した作品だ。
その業績に、近年あらためて光が当たる。たとえば83年に発表された「こどものとうひょう おとなのせんきょ」。少数意見の尊重が民主主義の基本であることを物語る小さな絵本は、ネットで評判になり、33年ぶりに復刊された。
高畑さんもかこさんも、子どもを一個の独立した人格として認め、向きあった。人間の弱さや社会の矛盾を隠さず、世の中には様々な考え方があり、同じ出来事でも別の角度から見ると違って見えることを伝えた。
残された私たちが、2人から学ぶことは、たくさんある。