(私説・論説室から)板門店で握手する人たち - 東京新聞(2018年5月14日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2018051402000144.html
http://web.archive.org/web/20180514044656/http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2018051402000144.html

南北首脳会談が行われた板門店に、観光客が殺到しているという。といっても、警備が厳しい本物ではない。二〇〇〇年に公開された韓国映画「JSA」を撮影する時、ソウル郊外に作られたそっくりのセットだ。
ここで、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領、北朝鮮金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長がやったように、南北を分ける軍事境界線を挟んで握手をし、写真を撮るのだという。
南北の急速な和解ムードを警戒する声は強い。そもそも北朝鮮が核を放棄するはずがない。正恩氏は、韓国から経済支援を引き出すために芝居を打っているという人もいる。
確かに、交渉は相当な時間と労力がかかるだろう。しかし、たとえ長い対話であっても、戦争よりはましだ。
平和を求める気持ちは、映画のセットで、握手を追体験する一般の市民が高め、実現させていくものかもしれない。
核兵器が消えて朝鮮戦争が終わり、緊張が解ければ、今度は本物の板門店で人びとが普通に握手し、行き来することになる。
幅四キロの非武装地帯は、野生動物がすむ広大な自然公園となり、北朝鮮の海や山は、開発がほとんどされていない、世界でも珍しい観光地になるだろう。
六月十二日には米朝首脳会談も行われる。うたぐるだけでなく、未来を心に描きつつ、交渉の行方を見守りたい。 (五味洋治)