憲法議論「活性化」と言うものの 対話の形、市民ら模索 - 朝日新聞(2018年5月4日)

https://www.asahi.com/articles/ASL530DJFL52UTIL060.html
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「この1年間で憲法改正の議論は大いに活性化し、具体化した」。昨年の憲法記念日憲法9条への自衛隊明記を提起した安倍晋三首相の目には、1年たって現状がそう映っているという。「議論がない」「理解が広がらない」と感じる人たちは、それぞれの方法で「対話」の形を模索している。(清水大輔、吉沢英将)
生活に寄り添った言葉で
3日、東京都江東区の野外会場であった9条改憲に反対する「5・3憲法集会」。司会をしていた菱山南帆子さん(29)が声をあげた。「安倍政権は今すぐ退陣」。同じ言葉を国会前の大規模デモでも訴える。でも、もっと日常の課題に引きつけて語る時もある。
財務省が前事務次官のセクハラ行為を認定した4月27日。「『#MeToo』も憲法9条を守ろうという運動も、同じだと思うんです」と新宿駅前で菱山さんは話した。「性差別の意識があるから、戦争が始まると女性が標的になる」。セクハラ撲滅への連帯を示した米ハリウッド女優にならい、黒い服を身にまとった。
安全保障法制や共謀罪法の採決を強行し、南スーダンイラクでの自衛隊の日報を「隠し続けた」政権。菱山さんは頭の中でこう考える。議論を避け、情報を開示しない政治姿勢のまま9条に自衛隊が明記されたら、自衛隊による「戦闘地域」での活動も見えない形で際限なく増える。しかし、そのまま口にしても伝わらない。身近な題材と結びつけたかった。「戦争で犠牲になるのは女性や子ども。だから憲法を守ろう」
受け手を意識するようになったのは中学生の時。イラク戦争に反対するため、米国大使館前で宿題をしながら座り込んだ。学校の入り口でビラも配った。難しい言葉だと友だちにいやがられると思った。
いま障害者施設で働いている。「NO!」と言いたくても体が不自由な人、国会前まで行く余裕のない人がいることも知った。
集団的自衛権の行使容認を閣議決定した2014年ごろから、駅頭や商店街の片隅に立つように。仲間に絵本や歌、仮面劇を披露してもらい、その横で幼少の頃から親しむ手話で通訳する。SNSでの事前告知や結果報告も欠かさない。「生活に寄り添った言葉で、誰にでも分け隔てなく伝わるように9条の大切さを訴えたい」
異なる認識の人とも
3日の同じ集会では「安倍9条改憲」に反対する全国署名の集計結果が発表された。1350万筆。3千万人の目標の半分にも及ばなかったが、会場にいた鈴木国夫さん(69)は「署名の数より対話の数が大事」と感じている。
東京都世田谷区に住む鈴木さんは「市民連合 めぐろ・せたがや」の共同代表。昨年の衆院選では地元選挙区で野党統一候補の擁立支援に携わった。
異なる意見の人との対話を意識したのは今年1月、15人ほどで署名の集め方を話していた時だ。「私たち、街頭でどう見られているかな」と問う仲間に、鈴木さんは「自衛隊を否定する非武装中立派では」と答えた。すると「今どき、そんな人いる?」という人と「私は非武装中立派」という人に分かれた。
「面白い」と鈴木さんは思った。街頭には様々な考えがあふれていて当たり前。それを知ることから始めることにした。
2月、駅頭で9条改憲の是非を問うシール投票をした。目的は貼ってもらう際の会話だ。「9条を改正できなければ、米軍は日本を見捨てる」と心配する20歳前後の男子学生2人とも、30分近く話した。
3月にはそうした経験を持ち寄り、戸別訪問で署名集めを意識した想定問答を試みた。安倍首相が言うような「自衛隊がかわいそう」との意見も否定はせず、「際限なく海外派遣するのは危険では」といった答え方で一致点を探れないか……。そうした会話をしながら実際に4月、750戸近くの団地を回って100筆以上を集めた。
安倍首相は自らを否定する人たちに「こんな人たちに負けるわけにいかない」と言った。鈴木さんは「異なる認識の人たちとも対話を重ねていきたい」と言う。首都圏の市民団体同士でそんな考え方を共有し合う交流会を開いている。