<金口木舌>赤ちゃんの泣き声が許されなかった時代 - 琉球新報(2018年4月30日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-710272.html
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大宜味村塩屋湾に面した白浜地区。赤ん坊の泣き声が響く。「以前はカラスの鳴き声ばかりだ。赤ちゃんの泣き声を聞くだけで幸せを感じる」。満面の笑みを見せた親川富成区長(63)の言葉が印象的だった

▼人口は赤ん坊を含め14人、10世帯。過疎に悩む村の中でも最少の地域だ。新生児は47年ぶりだけに、関係者は喜びに沸く。花火の打ち上げも企画された
▼区長の言葉で、かつて取材した安里要江さん(97)が浮かんだ。生後9カ月の長女和子ちゃんを抱いて沖縄戦の戦場をさまよった。糸満市の壕に逃げ込むと、日本兵が銃を向けて脅した。「敵に見つかる。泣き止まないと殺すぞ」
▼信じていた日本兵は米軍の攻撃よりも恐ろしかった。母親らは子の口をふさぎ、息を殺した。体力のない幼児はやがて静かになった。母の腕の中で、和子ちゃんは餓死した
▼2児ら肉親11人を失った安里さんは取材や講演で、いつも強調した。「軍隊は住民を守らない」。多くの県民が沖縄戦で同様の体験を味わった。県民の4人に1人の命が奪われ、学んだ確固たる教訓だ
▼安里さんをモデルにした映画「GAMA 月桃の花」は1996年の公開以来、今も県内外で上映され、平和の尊さと戦争の愚かさを伝える。共謀罪成立などで物を言えない空気が再び迫っている。赤ん坊の泣き声さえ許されなかった時代があったことを忘れてはいけない。