(余録)「君が歩兵大隊を編制していることを知っているのは君だけだ… - 毎日新聞(2018年4月18日)

https://mainichi.jp/articles/20180418/ddm/001/070/076000c
http://archive.today/2018.04.18-001926/https://mainichi.jp/articles/20180418/ddm/001/070/076000c

「君が歩兵大隊を編制していることを知っているのは君だけだ。兵は警査と呼び、士官は警察士と呼ぶのだ。もし戦車がみえたら、それは戦車ではなく特車だというのだ。トラックはトラックでよいがね」
自衛隊の前身、警察予備隊創設にあたったコワルスキー米軍大佐の訓練担当の部下への指示である。むろん憲法9条を配慮しての言いかえで、戦車の「戦」を避けて特車にしたのは初代の幕僚長にあたる林敬三(はやし・けいぞう)総監の苦肉の策だった。
今日、物議をかもす「戦」の字は、「ない」といわれた自衛隊イラク派遣時の日報にあった「戦闘」の記述である。活動地域は「非戦闘地域」だとした政府の説明との整合性が問題となるこの現地記録、組織的に隠蔽(いんぺい)されてきたのか。
公表された日報は435日分で、宿営地にロケット弾が頻繁(ひんぱん)に着弾した時期の分はいまだ見つかっていない。驚くのは、この自衛隊員が命をかけた活動の記録があるのかないのかすらもはっきりしない防衛省の文書管理の実態である。
コワルスキー大佐の回想録はシビリアンコントロールについていう。「日本で最も民主的な人々にも、この原則を理解し、受け入れることがこうも困難だったとは驚くほかない」。では今、防衛省はそれを本当に理解できているのか。
シビリアンコントロールは「『官僚による支配』に変質してはならない」。大佐はそう説いた。国民、その代表である国会の統制をかいくぐる「戦」の字隠しはもういいかげんにしてほしい現代の防衛省である。