司法取引 運用誤らず成果に導け - 朝日新聞(2018年4月17日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13454097.html
http://archive.today/2018.04.17-000247/https://www.asahi.com/articles/DA3S13454097.html

他人の刑事事件の解明に役立つ協力をした場合、検察官が本人の事件について、起訴を見送ったり求刑を軽くしたりする「司法取引」が6月に始まる。
取り調べに過度によりかかることなく、証拠をあつめる手段を増やして、薬物・銃器取引や特殊詐欺など一定の犯罪の摘発を広げるのがねらいだ。
捜査の透明化という観点からも注目したい。取引ができる根拠となるのは、起訴するか否かの判断にあたって検察官に与えられている広範な裁量権だ。検察の力の源泉ともいえるが、運用の実態は不明な点が多い。
リニア中央新幹線の建設談合事件では、容疑を認めたゼネコン幹部は起訴猶予となる一方、否認した者は起訴された。処分の違いに疑問を感じた人も少なくないのではないか。
今後は、そこに取引があれば内容が法廷で明らかになる。捜査の正当性が吟味されることで検察に緊張感をもたらし、独善に陥りがちな体質をただす手段にもなり得るだろう。
効果が期待される一方で、懸念もある。
最大のものは、うその供述がなされ、犯罪と本来関係のない人が引き込まれることだ。丁寧に裏づけをとり、真偽を慎重に見極める。事件捜査にあたる者の基本だが、いっそう念を入れたチェックが求められる。
検察は、不用意に取引の話を持ちださない▽現場の判断だけでなく、当面、高検や最高検とも協議しながら行う▽最終的に取引が成立しなかった場合も、やりとりを通じて派生的に知り得た情報や証拠は慎重に扱い、不信を招かないようにする――などの方針で臨むとしている。当然の姿勢といえよう。
運用を誤れば刑事司法全体への信頼がゆらぐ。捜査、弁護、裁判をになう法曹三者は、その認識と覚悟をもって、個々の事件に向き合う必要がある。
司法取引が導入される犯罪類型には、脱税や贈収賄、背任などの財政経済事件も含まれる。談合を公正取引委員会にみずから申告した場合、課徴金が減免される手続きが06年に始まり、企業の行動に大きな影響を与えた。今回の制度も同じように、コンプライアンス体制や企業風土の見直しを、経済界に迫るものとなりそうだ。
会社・業界が絡む犯罪を起こさないために、日ごろからどんな取り組みをするか。それでも防げなかった場合、社員や幹部はいかに行動すべきか。
社会のあり方や価値観を変える芽をはらむ制度だ。これからの歩みを注意して見守りたい。