広がる欧州の溝 価値観重視し結束を - 東京新聞(2018年4月17日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018041702000156.html
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反難民を掲げるハンガリーのオルバン首相が四期目続投を決めた。強権政治が際立つ東欧と西欧の対立に加え、シリア攻撃では米国に引っ張られた英仏の前のめりが目立つ。欧州の結束が心配だ。
オルバン氏は移民を支援する非政府組織(NGO)の設立を届け出制にし、外国からの寄付に25%の税金を課す法律で、さらに締め付けを強化するという。
NGOを支援し難民申請を手助けしてきたハンガリー出身の米投資家ソロス氏を目の敵にする。ユダヤ系の同氏攻撃には反ユダヤ主義も透けて見える。
官製のジャーナリスト養成機関をつくり、メディア統制も強化しようとしている。
オルバン氏をポーランドの与党指導者カチンスキ氏はたたえる。ポーランドでは政府が憲法裁判所の判事をすげ替え公共放送や通信社を国有化した。欧州連合(EU)による難民受け入れ分担反対でハンガリーと歩調を合わせる。
両国の振る舞いは、人権や自由を最重要視するEUの価値観に反している。
冷戦後、東欧に代わり中欧(中部ヨーロッパ)という呼称が使われるようになった。ドイツやオーストリアも含めた地域としても用いられ、東西の壁がなくなったことを象徴する言葉にもなった。
しかし今、ハンガリーなどの東欧諸国と古くからのEU加盟国である西欧諸国の価値観には、大きな溝ができてしまった。
社会主義だった東欧では民主化を急ぐあまり、政党間の対立が激しくなり寛容さに乏しくなったことも強権化の背景にありそうだ。
東欧諸国もEU離脱までは考えていない。良好な経済をもたらしているのはEUからの補助金や加盟国との貿易だからだ。しかし、いいとこ取りは許されまい。
シリアの化学兵器使用疑惑では英仏が、米国とともに懲罰的攻撃に踏み切った。化学兵器使用の証拠は示されず、国連のお墨付きもないままの強行だ。シリア問題解決の見通しも立っていない。トランプ米大統領への不信感が強いドイツは、攻撃参加を見送った。
英国での元スパイ暗殺未遂でロシアの脅威は強まっている。トランプ氏の米国はあてにできない。英国との離脱交渉も正念場を迎える。共通政策の大枠で揺らげば、危機に力は発揮できない。EUは安全保障面を含めて結束を取り戻し、人権など欧州の価値観を重視した将来像を描いてほしい。