放送法見直し 恣意的利用を懸念する - 琉球新報(2018年4月5日)

https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-694814.html
http://archive.today/2018.04.05-071049/https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-694814.html

フェイク(偽)ニュースが事実のように報じられたり、番組の質が落ちたりして結果的に国民の「知る権利」が阻害される恐れがある。安倍政権が目指す放送法の見直しは問題が多い。
安倍政権がテレビ、ラジオ番組の政治的公平などを求めた放送法の条文撤廃などを検討している。放送という制度を事実上なくし、インターネット通信と民放テレビ局を同列に扱い、新規参入を促す。早ければ今秋の臨時国会に関連法案を提出し、2020年以降の施行を目指す。
特に問題なのは放送法4条の撤廃を検討していることだ。4条は(1)公序良俗を害しない(2)政治的に公平である(3)報道は事実を曲げない(4)意見が対立する問題は多角的に論点を明らかにする−ことを求める。
この規制が放送の信頼性を高めてきた。その一方で、法的規制は権力による番組への介入を招くこともある。現に安倍政権は、放送局が4条に違反すれば電波停止などの行政処分を下せるとし、政権に都合の悪い番組に圧力を強めてきた。
規制が外れれば、「国家からの自由」が広がるという考えもある。だが、視聴率ありきで好奇心をあおる番組が氾濫しかねないことにも留意する必要がある。
時間とコストをかけた報道やドキュメンタリー番組、大規模災害報道、目や耳の不自由な人向けの字幕・解説放送などが淘汰(とうた)される恐れもある。公平公正な選挙報道は消え、資金の潤沢な政党が都合のいい番組を放送する懸念は払拭(ふっしょく)できない。
野田聖子総務相衆院総務委員会で「4条は非常に重要で、むしろ多くの国民は今こそ求めているのでないか」と述べた。放送事業を所管する総務相が、4条撤廃によって放送の信頼性が失われることを懸念しているのである。
ネット上で広がるフェイクニュースやデマが地上波に及ぶ事態もあった。東京メトロポリタンテレビジョン(東京MX)が放送した「ニュース女子」は、沖縄の米軍基地反対運動を裏付け取材もせずに「日当をもらっている」「武闘派集団のシルバー部隊」と一方的に報じた。ヘイトスピーチ(憎悪表現)反対団体「のりこえねっと」の辛淑玉(しんすご)共同代表を基地反対運動の「黒幕」であるかのように報じた。
放送倫理・番組向上機構BPO)は辛さんへの人権侵害を認め、再発防止策などを求めるよう東京MXに勧告した。だが、BPOはあくまで放送事業者がつくった第三者機関であり、インターネット放送に権限は及ばない。
放送法はアジア太平洋戦争時、戦意高揚の政府宣伝にラジオが使われた反省から、1950年に制定された。国民が望むのは、自由な言論の場としての放送である。権力による放送の恣意(しい)的利用が再び起きてはならない。