ネット学術誌 チェック不十分な論文急増 誤解広がる恐れ - 毎日新聞(2018年4月2日)

https://mainichi.jp/articles/20180403/k00/00m/040/052000c
http://archive.today/2018.04.02-111136/https://mainichi.jp/articles/20180403/k00/00m/040/052000c

インターネット専用の学術誌の中で、別の研究者による内容のチェック(査読)が不十分な論文を載せる質の低い学術誌が急増している。研究者から徴収する掲載料を目的として運営している業者もあるとみられ、学術的に妥当とは言えない成果に「お墨付き」が与えられることで誤解が広がる恐れもある。日本の科学者の代表機関「日本学術会議」は対応策を検討する。【鳥井真平】
ネット専用の学術誌は「電子ジャーナル」と呼ばれる。1990年代末から急速に広がり、自然科学、人文科学など分野を問わず世界中で利用されている。誰でも論文を閲覧できるオープンアクセス(OA)型のものが多く、成果を広く共有できるメリットもある。
一般的な学術誌は、投稿された論文を複数の専門家に査読してもらった上で掲載の可否を判断。研究者側に掲載料の負担はなく、主に読者の購読料で出版費用をまかなう。一方、一般的なOA型は研究者が支払う掲載料を運営費に充てる。しかし、首都大学東京の栗山正光教授(図書館情報学)によると、電子ジャーナルには査読がずさんで、掲載料を払うだけで論文を掲載できるものも多い。専門家は掲載料目的の粗悪な学術誌を「ハゲタカジャーナル」と呼んでいる。
著名な研究者を無断で編集委員名簿に加えて権威付けをしたり、学術誌のランクを示す指標「インパクト・ファクター」を偽ったりしている事例もある。2013年ごろから年に数百誌以上のペースで増えているとみられるという。米科学誌「サイエンス」の編集部などが13年、内容に明らかに誤りのある論文を電子ジャーナル304誌に投稿したところ、157誌がそのまま掲載を認めた。
こうした粗悪な学術誌に日本の研究者が論文を投稿するケースも少なくない。国立情報学研究所は14年、米国の研究者が「粗悪」とみなした学術誌1300誌以上のリストに基づき、東京大や京都大などの主要大学44校の研究者の投稿状況を調べた。すると、過去1年間にOA型の電子ジャーナルに投稿した研究者の回答865件のうち、99件(11・4%)がリストに含まれる雑誌への投稿だった。
文部科学省は、こうした雑誌への掲載料が国の科学研究費補助金科研費)で支払われている事例があるとみて関心を寄せている。日本学術会議は、科学者はどうあるべきかを議論する科学者委員会の分科会で、審議課題とする方針だ。
大阪大の平川秀幸教授(科学技術社会論)は、粗悪な学術誌のまん延について、質が担保されていない論文が流通するリスクがあることを指摘し「学術への信頼をむしばんでいくため、学術界全体の問題として対策が必要だ。問題ある学術誌は淘汰(とうた)されるべきだ」と話す。