放送の「政治的公平」撤廃案 透けて見える政権の思惑 - 毎日新聞(2018年3月30日)

 
https://mainichi.jp/articles/20180330/ddm/005/070/155000c
http://archive.today/2018.03.30-001105/https://mainichi.jp/articles/20180330/ddm/005/070/155000c

産業政策に名を借りた新たなメディアコントロールではないか。放送に関与し、都合のよい番組を流したい政権の思惑が透けて見える。
政府が検討している放送制度改革案が判明した。通信との垣根をなくし、新規参入を促すのが狙いだ。
その具体的手段として挙げられているのが放送法4条の撤廃である。放送事業者が番組を作る際の原則で「政治的公平」などを明示する。
4条の扱いは、放送と政権の関係が問われるたびに注目されてきた。
放送局が目指す倫理規範とみるのが通説だが、国は行政処分ができる法規範との解釈を取っている。
安倍政権下の2014年衆院選では、自民党が民放とNHKに選挙報道の公平中立・公正を求めた。直前の番組では、首相が自分に批判的な声を集めた街頭インタビューに反発する場面があった。16年には、当時の高市早苗総務相が4条違反で電波停止を命じる可能性に言及した。
このように4条は政治介入を許す口実に使われる側面がある。今回はその4条撤廃を唐突に持ち出した。
4条を撤廃しインターネット事業者などが参入しやすくなると、極端な表現をする番組やフェイク(偽)ニュースが横行する恐れがある。
放送を所管する野田聖子総務相衆院総務委員会で、4条がなくなれば事実に基づかない報道が増加する可能性があるなどと懸念を示した。
放送法の目的は本来、放送による表現の自由を、社会的影響力に対処しつつ保障することにある。
1条は「放送が健全な民主主義の発達に資するようにする」とし、3条は「番組は法律に定める権限がなければ干渉・規律されない」とうたう。これらを前提にした4条だけを切り離して論じるのは不適当だ。
放送の自主自律を堅持し、問題があるなら、NHKと民放が設立した放送倫理・番組向上機構BPO)などが解決すべきである。
改革案は政府の規制改革推進会議が集約する。会議の委員には、東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の番組「ニュース女子」の進行役を務めた東京新聞論説委員も名を連ねる。この番組の沖縄報道は放送倫理違反に問われた。
政府のご都合主義で放送制度改革を進めることがあってはならない。