(大弦小弦)大群衆の前に、マーチン・ルーサー・キング牧師の… - 沖縄タイムズ(2018年3月26日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/227828
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大群衆の前に、マーチン・ルーサー・キング牧師の9歳の孫娘が現れた。24日、米首都ワシントンで開かれた銃規制要求デモで「私には夢がある」と語った。祖父の歴史的演説から一節を借りた

▼黒人差別根絶に向け運動を率いたキング牧師は、あくまで「非暴力の力」を信じた。言葉が彼の武器だった

▼一度だけ、脅迫から家族を守るため運動をやめようとしたことがあったという。ある夜、祈ることで力を取り戻し、その後は自宅が爆破されても和解を呼び掛けた。「憎しみを憎しみで駆逐することはできない。それができるのは愛だけだ」と説いた

▼死の予感は常にあった。「私が皆さんと一緒に行けなかったとしても、私たちは必ず約束の地にたどり着く。私は何も心配していないし、誰も恐れていない」。この時39歳。これが最後の演説となった

▼凶弾に倒れたのは翌日、1968年4月4日。ちょうど50年がたとうとする今も、差別と暴力は猛威を振るっている。米国で、沖縄で、世界で。約束の地はなお遠い

▼それがなぜなのか、キング牧師は明確に指し示している。「究極の悲劇は、悪人による迫害や酷薄ではなく、善人による沈黙である」「発言することだけでなく、発言しないことにも責任を取らなければならない」。この言葉が多数派に届いた時、初めて扉は開く。(阿部岳)