前川氏の授業 政治家は干渉を慎め - 東京新聞(2018年3月21日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018032102000177.html
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政治家の威圧的な干渉と批判されても仕方がない。前川喜平前文部科学次官の中学校での授業を巡り、自民党の国会議員が直後に文科省に照会していた。教育行政の中立公正が大きく揺らいでいる。
名古屋市立中学校での二月の授業で、前川氏が行った講演について、文科省が根掘り葉掘り問いただすメールを市教育委員会に送った背景の一端が浮かんだ。
これに先立ち、自民党文科部会長を務める赤池誠章参院議員(比例)と、部会長代理の池田佳隆衆院議員(比例東海)が報道でこの授業を知り、文科省に問い合わせたというのだ。
文科省はしかも、池田氏にメールでの質問事項をあらかじめ示して意見を求め、修正していたというから愕然(がくぜん)とさせられる。
一握りの政治家の意向に唯々諾々と従い、国が個別の学校の授業をあげつらう行動に出たとすれば看過できない。林芳正文科相は議員の影響を否定し、文科省としての主体的な調査だったと釈明するが、にわかには信じ難い。
官僚にとっては、政治家からの接触そのものが圧力と感じられるはずだ。赤池氏らが学校に問題があると主張するなら、せめて開かれた国会の場で議論するべきだ。
林氏は文科省の行為の正当性を説くばかりではなく、教育行政を預かる最高責任者として、政治家による授業への干渉をどう考えるのかを明らかにしてほしい。
前川氏は先に公表したコメントで、こう述べている。「本来、教育に対する政治の不当な介入を阻む役割を負う文科省が、逆にそうした政治の介入に屈してしまったことは残念に思う」
教育基本法は教育行政について「教育は、不当な支配に服することなく」と定めている。教育勅語に基づき、国が教育を統制した負の歴史の教訓が込められている。そのことを忘れてはならない。
赤池氏らは、前川氏が天下りに関与して辞職し、懲戒処分相当とされた経緯を問題視し、特に公立中学校の教壇に立ったことに疑念を抱いたようだ。
しかし、学校は教育上の狙いと効果を見極めて授業を計画する。どういう人物を招くかは、学校の裁量に委ねるべきだ。現場の自主自律が尊重されてこそ、多様な学びの機会が広がるのだ。
無論、議員として役所に照会したい事柄もあるだろう。だが、周りがどう受け止めるかを自覚しているか。議員だからこそ謙抑的かつ慎重に振る舞わねばならない。