(米軍属事件 補償の壁)地位協定の解釈見直せ - 沖縄タイムズ(2018年3月17日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/224113
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軍属として特権的地位を与えておきながら、米軍の直接雇用ではないので補償の対象外というのは、到底納得できるものではない。
一昨年4月、うるま市で起きた米軍属の男による女性暴行殺害事件で、米政府が遺族への補償を拒んでいる。
この事件では一審で無期懲役とされた被告に対し、那覇地裁が遺族への賠償を命じる決定を出した。犯罪被害者支援の一環で、刑事裁判の中で賠償請求できる「損害賠償命令制度」によるものだ。
しかし被告に支払い能力がないため、遺族は日米地位協定に基づき米政府に補償を求める準備を進めていた。その矢先、補償に後ろ向きの声が聞こえてきた。
地位協定18条6項は、「合衆国軍隊の構成員又は被用者」が公務外に起こした不法行為について米政府の補償を定めている。
事件当時、被告は基地内の民間会社で働いていた。米軍の直接雇用ではないので制度が適用される「被用者」に当たらないとの主張である。
一方、地位協定1条は「合衆国の国籍を有する文民で日本国にある合衆国軍隊に雇用され、これに勤務し、又はこれに随伴するもの」を軍属と規定している。軍と契約している民間会社に雇用されていた被告も、地位協定の定める軍属とされたのだ。
在沖米軍トップが事件後、県庁に駆け付け「私に責任がある」と頭を下げたのは、軍人並みに地位協定の恩恵を受ける軍属だったからである。責任を忘れたわけではあるまい。

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米軍人らによる公務外の事件・事故では、米側の支払いが裁判所が示した補償額に満たない場合、その差額を日本政府が埋める「SACO見舞金」の制度もある。だが見舞金は米側の補償が前提だ。 
冷静に考えてほしい。ウオーキング中に突然襲われ、命を奪われた被害者には何の落ち度もない。加害者のみか、両政府からも賠償金や見舞金が一銭も支払われないというのはあまりに理不尽だ。
昨年、両政府は犯罪抑止につなげようと軍属の範囲を縮小する地位協定の補足協定に署名した。政府は画期的と自画自賛したが、肝心な軍属と被用者の違いさえ整理していなかったのである。
そもそも今回のような米側の解釈はどこで誰が決めたのか。米側が一方的に解釈しているのか。それとも日米合同委員会で話し合われ、そのような解釈に至ったのか。明らかにすべきだ。

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裁判で読み上げられた被害者の母親の言葉を思い出すと今でも胸が締め付けられる。「(娘は)想像しがたい恐怖におびえ、痛み、苦しみの中でこの世を去りました。悔しいです。悲しすぎます」
国会は衆参両院で与党が圧倒的多数を占めている。被害者遺族に寄り添い、公的救済に積極的に動くべきだ。
基地あるが故の被害に対する補償を、被用者かどうかで区別することに合理的理由はない。地位協定の見直しも含めて、この問題を早急に解決しなければならない。