文科省が授業内容を調査 教育への不適切な介入だ - 毎日新聞(2018年3月17日)

https://mainichi.jp/articles/20180317/ddm/005/070/105000c
http://archive.today/2018.03.17-005259/https://mainichi.jp/articles/20180317/ddm/005/070/105000c

国による行き過ぎた個別授業への干渉だ。教育への介入と指摘されても仕方がない。
名古屋市の公立中で行われた授業に前川喜平・前文部科学事務次官が講師として出席した。これを知った文科省が内容を詳細に報告するよう求めるメールを市教委に送り、録音データの提供も求めた。
授業は2月中旬、市立中で全校生徒と地域住民が対象の総合学習の時間だった。前川氏と以前から知り合いだった校長が依頼した。
前川氏は、自らの不登校経験や夜間中学のことなどを話したという。
驚くのは、この授業を知った文科省の対応である。
このメールでは、前川氏が天下り問題で引責辞任したことなどを説明し、講師依頼の判断や授業内容を15項目にわたり問いただしている。「授業を行った主たる目的は何だったのか」などと回答を求めている。
学校は授業内容の概略を市教委に報告したが、録音データの提供は拒否したという。当然だろう。
文科省は、学校の個別の授業内容に介入しないことが大原則だ。
文科省の役割は、学習指導要領の策定など全国共通の教育基準作りや教育の条件整備だ。
教育基本法は「教育は不当な支配に服することなく」と定めている。
国が教育内容を統制した戦前の反省からだ。文科省が個別の授業内容を調べれば、現場はそれを圧力と受け止める恐れがある。現場は萎縮し、学校の自主性を損ないかねない。
気になるのは、前川氏が加計学園の問題で安倍政権への批判を強めていたことだ。今回の調査は初等中等教育局長も了解していたという。前川氏の行動を監視していることを、アピールでもしたいのだろうか。
林芳正文科相の対応にも疑問がある。「誤解を招きかねない面があった」と担当局長を注意した。だが「授業の狙いや招いた経緯を確認する必要があった」と調査に問題はないとの認識を示した。
地方教育行政法は、文科省が教委への調査ができると定めている。だが、想定されるのは法令違反やいじめなどの緊急事態だ。今回がそれに当たるとはいえまい。
文科省は改めて経緯を調べ、公表すべきだ。