<金口木舌>悪い時代 - 琉球新報(2018年3月14日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-681982.html
http://archive.today/2018.03.14-001827/https://ryukyushimpo.jp/column/entry-681982.html

出勤時、NHKの連続テレビ小説わろてんか」をたまに見る。熱心な視聴者ではないが、先週の放送には引き込まれた。日本軍を激励するため、芸人の慰問団を中国大陸に送り出すとの筋書きだ

▼お笑いを中心とした芸能事務所・吉本興業がモデルの「北村笑店」が物語の舞台。社員や所属芸人は悩んだ末、「お国のため」に慰問団の派遣を決めた。芸人が戦争にのみ込まれた時代だった
▼芸人の戦地慰問は実際にあった。吉本興業は1938年、「わらわし隊」という慰問団を組んだ。戦地慰問は米国にもあった。コメディアンのボブ・ホープはその代表格だ
▼戦地への慰問を体験した沖縄出身の漫才師がいた。南風原で生まれ、大阪で活躍した岡田小菊さんだ。13年前、お話を聞いた。「兵隊さんが喜んでくれるから」という空気に押され、慰問団に志願したという
▼待遇は良かったが、複雑な思いを抱いたのだろう。「戦争に負けて良かった」と岡田さんはきっぱり言った。「勝っていたら軍隊を続けないといけないし、兵隊さんはあちこち遠い所にやらされて、国を守らなければいかんでしょう」というのだ
▼家族を故郷に残し、死と向き合う若い兵士の悲哀に触れたのか。それはお笑い芸では癒やせなかったのかもしれない。「芸人にとって戦争は悪い時代よ」と嘆き、遠くを見詰める岡田さんを思い出す。