(余録)俳優とは大変な仕事である… - 毎日新聞(2018年3月12日)

https://mainichi.jp/articles/20180312/ddm/001/070/071000c
http://archive.today/2018.03.12-010513/https://mainichi.jp/articles/20180312/ddm/001/070/071000c

俳優とは大変な仕事である。今年のNHK大河ドラマ「西郷(せご)どん」で出演者が使う方言を耳にしてそう感じる人も多いのではないか。薩摩弁はことのほか難しい。それでも地元の人に自然に聞こえるようにセリフを話せなければならない。
だから地方が舞台のドラマには方言を指導する人が欠かせない。NHK朝の連続ドラマ「あさが来た」には大阪弁がひんぱんに出てきた。船場の商人が使う言葉には品のよさが求められるという。方言指導者によれば「どうにかならへんの」と相手に強く迫る場面でも「どうにかならしまへんの」と柔らかく表現した。
方言はそこに暮らす人の文化、魂と言っても言い過ぎではない。だが東日本大震災では沿岸部の住民が内陸部に移り住んだことで方言が途絶えかけている地域もある。東北大学はインターネット上に「東日本大震災と方言ネット」というサイトをつくり、方言に関する情報を集約、発信する。
復興に役立てることが大きな目的だ。東北大の小林隆教授は共著「方言を救う、方言で救う」の中で、こう記している。「地域の復興は文化の復興と一体にならなければ成し得ない」
7年前のあの日から東北には全国各地からたくさんの応援の声が届いた。中にはこんなメッセージがあったという。鹿児島県姶良(あいら)市からだ。
「お気張(きば)いやったもんせ 姶良より」。元気を出してくださいませと。遠く離れた土地からの難しい方言でのメッセージ。それがこうも優しく、力強く心に響く不思議さを思う。