佐川長官辞任 政権全体が問われる - 朝日新聞(2018年3月10日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13395672.html
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辞任は当然である。しかし、これで幕引きにはできない。
麻生財務相が記者会見で前理財局長の佐川宣寿(のぶひさ)・国税庁長官の辞任を発表した。森友学園との国有地取引に絡む国会対応などの責任をとると、本人が申し出たという。
確定申告さなか、徴税機関トップの異例の辞任である。この事態を招いた任命権者の麻生財務相、そして人事を認めた安倍首相の責任は極めて重い。
麻生氏は、昨年の通常国会で虚偽が疑われる答弁を重ねた佐川氏を国税庁長官に昇格させ、その後の国会審議でも「適材適所」と繰り返した。首相もそれを受け入れてきた。
それなのに、財務省の決裁文書の内容が書き換えられていた疑いが浮上し、国民の不信に火が付くと、懲戒処分したうえで突然の辞任である。
受け入れ難いのは、麻生氏がきのうも佐川氏は「適任だった」とし、国会にもきちんと対応していたと語ったことだ。自身の任命判断に誤りはなく、今後、国会で佐川氏に説明させるつもりもないと言い切った。
さらに重大なのは、麻生氏が会見で、文書書き換えの有無について口を濁したことだ。佐川氏を辞めさせることで世論を沈静化させ、問題をあいまいにしようというなら許されない。
麻生氏、さらに首相は、政府として誠意ある調査を主導し、その結果を迅速に国民に説明する責任がある。
問われているのは佐川氏の去就にとどまらない。政権のあり方そのものだからだ。
格安の売却が報じられたのは昨年2月上旬。学園の開校予定の小学校の名誉校長を首相の妻昭恵氏が務めていた。関係者によると、文書の内容が変わったのは同月下旬以降とみられる。
首相や昭恵氏の存在が、特例的な扱いの背景になかったか。「1強」といわれる首相への、いわゆる忖度(そんたく)はなかったか。
書き換えが疑われている文書は、与野党財務省に要求したものだ。書き換えが事実なら、1年余の国会審議の前提が覆ることになる。行政府として、立法府への軽視はなかったか。
国会で改めて十分な時間を確保し、議論を仕切り直さねばならない。辞任した佐川氏の国会招致が不可欠なのは言うまでもない。
安倍政権では公文書の管理をめぐる問題が絶えない。
行政が適正に行われたか、判断材料となる公文書をずさんに扱うことは、国民への背信である。問題の根っこに何があるのか。政権全体が問われている。