(余録)清掃員として働く声が出ない女性と… - 毎日新聞(2018年3月6日)

https://mainichi.jp/articles/20180306/ddm/001/070/150000c
http://archive.today/2018.03.06-000712/https://mainichi.jp/articles/20180306/ddm/001/070/150000c

清掃員として働く声が出ない女性と、不気味な姿のモンスターとの恋を描いた物語だという。米国の第90回アカデミー賞で作品賞に選ばれた「シェイプ・オブ・ウォーター」である。
華やかな映画の祭りも、政治や社会の動きに無関心ではいられない。2003年はイラク戦争開戦の直後で、長編ドキュメンタリー賞を受けた監督が「ミスター・ブッシュ、恥を知りなさい」と痛烈に批判した。
その後も助演女優賞の受賞者が「今こそ、この国の女性たちは平等な賃金と権利を手にすべきです」と性差別を告発したことがある。一昨年は、演技部門の候補者が2年連続で全員白人だったため、黒人の監督や俳優が式典を欠席している。
トランプ大統領が誕生してすぐの昨年は、不寛容と排外主義に立ち向かい、多様性を重んじようと呼びかけるスピーチがあった。こうした中で同性愛者の黒人少年の苦悩と成長を描く「ムーンライト」が作品賞を受けた。
そして、今年は「シェイプ・オブ・ウォーター」だ。障害を持つ主人公に黒人女性の友人、隣人は男性同性愛者という設定である。監督はメキシコ人。選ばれた意味は明快だろう。少数者へのいかなる壁も築かない決意とともに自らへの戒めがある。
映画はかつて、戦争を正当化するために利用され、人種や宗教、性などによる差別と偏見を助長する役割を担わされることもあった。苦い歴史は米国だけではない。もう、そんな過去に引き戻されないというハリウッド関係者のメッセージは重い。