(筆洗)権力は腐敗しがちであり、絶対権力は絶対に腐敗する - 東京新聞(2018年3月1日)


http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018030102000136.html
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「権力は腐敗しがちであり、絶対権力は絶対に腐敗する」との至言を残したのは英国の歴史家アクトン卿だが、ブータン王国のジグメ・シンゲ・ワンチュク前国王は、この名言を原文で一言一句違(たが)わずに覚えていたという。
世界銀行副総裁を務めた西水美恵子さんの著書『あなたの中のリーダーへ』によると、前国王は「自由とは好きなことをする権力ではなく、為(な)すべきことができる権利である」というアクトン卿の自由主義哲学に深く共鳴し、王として「為すべきこと」に取り組んだ。それは自らの絶対権力を縛り、民主化を進めること。王の権限を議会に移していき、国王の定年制も設けたのだ。
絶対権力を自ら手放した「王国の主(あるじ)」がいれば、それを何としても手に入れようとする「人民共和国の主」もいるようだ。中国の習近平国家主席である。
中国で、これまで二期十年と限っていた国家主席の任期制限を撤廃する改憲案が出された。任期制限は、中国が文化大革命という悲劇を代償として手にした歴史の知恵。それを捨て去ろうというのだ。
ジグメ・シンゲ・ワンチュク前国王は、議会制民主主義への道を開いて退位する時、国民にこう語り掛けたという。「国を想い民に尽くす指導者を選ぶことを考えよう。その義務を果たす学習の道が、もうすぐ始まるのだ」
習氏の口からは決して聞けそうにない、名言である。