(筆洗)大滝秀治さんの思い出 - 東京新聞(2018年2月12日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018021202000112.html
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その男の子は生まれた時から髪の色が白に近い灰色だった。眉も白い。母親は妊娠中に服用した薬のせいだと気にしていたそうだ。
その子が中学に上がる時の保護者同伴の面接試験。母親はその子とトイレに入り、マッチを擦って消し炭にして眉を描いた。俳優の大滝秀治さんの思い出である。人と変わらぬ眉にしてやりたかったのだろう。
面接はどうなったか。面接官は「その眉はどうしたのかね」と聞いた。その途端、母親は大滝さんの手を引いて試験会場を出たそうだ。もちろん、その学校はあきらめた。「その晩、母は泣いていた」と書いている。
せつなかっただろう。その話をふと思い出した、小学校の制服騒動である。東京都中央区立泰明小学校が、イタリアの高級ブランド「アルマーニ」の手掛ける「標準服」の採用を決めたが、問題はその値段。一式そろえれば、総額八万円という。
みながその服を着ると聞けば、親としてはあつらえてやりたかろうが、たじろぐ声があるのは当然だろう。ハイカラな街とはいえ、公立小学校。大滝さんの母上のようなせつない思いをする人が出ないことを願う。
校長先生は「銀座の学校だからこそ高級な服が適している」とおっしゃったそうだ。確かに銀座は高級で身構えたくもなるが、庶民的で懐の深いところもある。それが銀座の魅力でもあろう。懐深き解決策を見つけたい。