過労事故死 和解成立 限界試す働き方間違っている - 東京新聞(2018年2月9日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201802/CK2018020902000123.html
https://megalodon.jp/2018-0209-1005-11/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201802/CK2018020902000123.html


「人間の限界を試すような働き方は間違っている」。会社員渡辺航太さん=当時(24)=の事故死と過労の因果関係を認めた和解が成立したのを受け、遺族は声を詰まらせて訴えた。過酷な労働環境に対し、異議を唱え続けることが「未来への責任」という遺族の思いが実を結んだ。 (小形佳奈、山本哲正)
法廷での和解成立後、息子を失った母淳子さん(61)は「私は、過労死のある日本社会を恥ずかしく思う」と語った。淳子さんは、事故から四年近くがたつ今も線香をたかない。洗濯物や布団に残る息子の匂いが消えるからだ。「寝ている間に、息子が帰ってくるような気がする」
航太さんはアルバイトをしながら奨学金を得て大学の二部(夜間)を卒業。正社員での就職を目指し、卒業半年後の二〇一三年九月、ハローワークを通じて、商業施設などに植物を飾る「グリーンディスプレイ」に応募した。
「試用期間なし」「就業時間は朝から夕方」「残業は月平均二十時間」
求人票にはそう書いてあった。しかし、アルバイトとして採用後、早朝や深夜勤務もあり、事故直前一カ月間の時間外労働は約九十時間に及んだ。航太さんは「寝るひまもない」「今辞めたら奨学金を返せない」と打ち明けていた。
一四年三月、目指していた正社員になれることになったが、そう報告する航太さんの表情は「へとへとだった」という。最後に話したのは事故四日前の四月二十日。「ゴールデンウイークに休みが取れそうだから、相談に乗ってほしい」。事故が起きた日は前日から約二十二時間、働き通しだった。
裁判では、航太さんが日々の業務を記したメモやタイムカードをもとに、泣きながら過重労働の実態を示す資料を作った。
和解の成立を受け、淳子さんは「事故の原因が過労によるもので、会社側の安全配慮義務違反を認めた前例になったことに意味がある」。
そして、「過労死のない社会を築くことが、息子への本当の報告だと思う」と決意している。