増加する不登校、自己肯定の場を 第5景・教育(7) - 福井新聞(2018年2月6日)

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計算を終えた小学生の頭を「よーできたな」となでる。途中で来た中学生には「おっ、来てくれてありがとな」。幅広い年代の人が集う福井県越前市の「みんなの食堂」では昨年から、教員OBらが宿題などを教える学習支援教室を開いている。やって来る半数は不登校不登校気味の子どもたちだ。
「私もお役に立てないだろうか」。昨年6月からこの取り組みに参加している社会人の素子さん(20代)=仮名=は、小中高校時代の不登校経験者だ。
「集団の中にいると、理由なく頭が痛くなり、呼吸もつらくなった」と素子さん。学校の相談室通いをしていたときは、たまに廊下で同級生と目が合うだけで動悸に襲われた。「毎日暗いトンネルの中にいるようだった」
受験で合格した高校にも通えなくなり、通信制高校に入り直した。そこでは70代の男性やシングルマザー、キャバクラで働く女性など、いろんな人と机を並べた。「いつも頑張ってるね。偉いね」と声を掛けられることもあった。
「小中学生のときは、私だけみんなと違うと思ってきたが、みんなそれぞれ違うことを知った。『私』というのが生き方の一つだと教わった」。卒業後は大学に進み就職した。

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学習支援教室の先生には、素子さんや教員OBのほかに不登校の高校生もいる。
昨年12月には、素子さんとその高校生が中心になって、教室に来ている中学生を招いたクリスマスパーティーを開いた。高校生はサンタクロースにふんした真っ赤な帽子をかぶり、ビンゴゲームのときにプレゼントを渡した。素子さんは「今、高校生に必要なのは、何かの役に立っているという自己肯定感。とにかく誰かに『ありがとう』と言ってもらえる機会をつくってあげたかった」と話す。
高校生はパーティーのチラシを描き、当日は夜中の2時まで母親と一緒にクッキーを焼いた。

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食堂や学習支援が行われるこの場所を、越前市主任児童相談員で、元小学校校長の佐竹了さん(61)は「成績などに関係なく、自分(子ども)を認めてくれる空間」と表現。素子さんは「子どもたちは自分らしく社会で生きていくためのフォーム(型)をつくっている」と話す。
不登校だった男子児童は、ここで紙芝居に出合った。大人の前で披露するようになり、自信をつけ、学校に通い始めた。「将来は子どもに紙芝居を読んであげられる保育士になりたい」と笑顔を見せる。
文部科学省によると、2016年度の福井県内の小中学校の不登校者数は674人で前年度比37人増。千人当たりでは10・3人で、4年連続で増加した。高校の不登校者数は286人で前年度比37人増だった。全国の不登校児童生徒数も増加傾向にある。
素子さんは「人とのかかわりを増やし、頼る先を増やすほど人は自立していくと思う。人生の道は一つじゃない。つまずいても、不登校になっても、その先には道がある」。子どもたちに自らの経験を語りながら、今度は自分が頼られる人になりたいと思っている。