小さい学校の功罪、関係や序列不変 第5景・教育(5) - 福井新聞(2018年2月2日)

http://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/289270

2時間目が終わると大休み。全校児童70人の福井市鷹巣小の1年生から6年生が体育館に集まってきた。球技や一輪車、鉄棒―。学年関係なく入り交じる。
この日の一番人気はドッジボール。途中、こぼれたボールを取りにいった2年生同士がぶつかり、1人が鼻血を出した。「大丈夫?」。6年生がすぐに気付き、肩に手を掛けた。居合わせた教頭に伝える児童。別の児童は教室からティッシュ箱を持ってきた。教頭や5年の担任教師がみんなから話を聞いた。「たまたま当たったんか」「うん」。
5年の担任教師は3時間目の国語の授業の前に、大休みの出来事を振り返る時間を取った。6年生が保健室まで付き添ったことはクラス全員が知っていた。「大きい子は小さい子を助けてあげような」
全学年1クラス。大休みや昼休みはみんなで遊ぶ。6年生の男子は「低学年もみんな顔が分かるし仲がいい」と得意そう。鼻血を出した2年生は「高学年とのドッジボールは球が速いから面白い」と早速、昼休みには体育館に現れた。

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児童生徒数が少なく、各学年1クラスだったり、自治体に小学校と中学校が一つだったりする小規模校。30〜40代の卒業生は「ほかの学年とも仲がいい」「学校が大きな家族のよう」と、少人数ならではの良さを話す。
教員にとっても「教職員全員で生徒全員に目が行き届く」(30代男性教諭)「生徒一人一人の変化が把握しやすい」(50代男性校長)。
だが、見過ごせないデメリットもある。学校での子どもたちの、序列にもつながりかねない「立場」が変わらないことだ。小規模校で育った40代の男性教諭は「ともすると生まれたときからずっと同じで、小学校に上がっても静かな子、発言力のある子、みんなそのまま。頑張ったテストの順位も変わらないぐらい、不思議な世界だった」という。
同じメンバーの中で、互いの位置付けや人間関係が固まってしまう。ときに異論や反論があっても、振るまいは変わらず表面に出てこない。
学習指導面での懸念も。30代の男性教諭は丁寧な指導が生徒にとって、息苦しく感じることもあるのではないかと話す。「指導しやすいが故にもっと頑張れるのじゃないかって思いがちになる。生徒にしてみれば逃げ場がなくなるかもしれない」。少しゆとりを持った指導が大切だと訴える。


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池田小、池田中出身の宇野文康さん(37)は小学3年まで1クラス。小4以降も同学年五十数人までで、上や下の学年とも仲が良かった。同学年とは今でも男女問わずみんなで飲み会を開く。
中学ではいじめもあった。小学で弱い立場にいると、中学に入っても同じ。ちょっとこづいていただけが、体の成長とともに「殴る」にエスカレートしても、「友だちの目も『あの連中は昔からあんな感じだから』と、誰も止めなかった」。今は後悔しているが、宇野さん自身もいじめる側にいた。
振り返ると「ピラミッドみたいな上下関係が崩れないのは小さい学校の弊害」と思う。担任以外の先生が生徒のことを何でも知っていることも、窮屈に思う子どもがいるかもしれないと感じる。
大きな家族のような包容力の一方で、人間関係の固定や過度な学習指導の可能性をはらむ小規模校。宇野さんは「確かに逃げ場はなかったかもしれない」と振り返った。