子どもの気持ちを整理し“通訳”第5景・教育(4) - 福井新聞(2018年2月1日)

http://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/288747

黒板に向かい、机が整然と並ぶ。福井県内のある中学校の「学習室」。ソファがあることや、隣に個室があることを除けば、ほぼ教室と変わらない。やってきた生徒がいつでも教室に戻れるようにとの配慮だ。
50代の男性スクールカウンセラーは、おおむね週1回、ここで生徒たちの相談に乗る。「何を悩んでいるんや?」などというやぼな質問はご法度。「どう、寝られる?」「ご飯は食べているか」と声かけするのが基本だ。
子どもたちは思い思いに「学習室」にやって来る。始業時間に近い午前8時半すぎにいることもあれば、10時ごろに来て昼に帰る生徒、午後から来る生徒もいる。
「カウンセラーを経由して、本人の心の状態を本人に返しているだけ」。悩んでいる生徒が、自分の気持ちに気が付くことで次のステップへと進んでほしいと思う。勉強や運動はできるか、宿題はしてきたか、礼儀正しいか―そういう評価をされない、羽休めができる場になるように。「悩みがあるのに、よく学校まで来たなって受け止めてあげたい」

  ■  ■  ■

スクールカウンセラーは1995年度の文部省(当時)の調査研究を経て、2001年度から福井県内の一部学校で導入。全小中への配置は14年度に実現した。小中では、初年度14人から17年度80人となり、18年度には90人に増やす計画だ。
県教委によると、カウンセラーを配置する頻度・時間は、児童生徒数や、不登校の子どもの数などで決める。中学はおおむね週1回、小学校は規模によって毎週、隔週、月1回。子どものほか保護者、教員の相談にも応じる。
業務は学校によって千差万別。朝から晩まで子どもや保護者の相談に追われる人もいれば、1人も話さずに終わる人も。それでもある教諭は「(児童生徒)1人の悩みを聞くことに集中できる時間は少ない。どうしても教室全体を見ざるを得ないので助かる」と歓迎。常駐を望む声も少なくないという。

  ■  ■  ■

県内スクールカウンセラーの“先駆け”である坂井市の鈴木るみ子さん(59)の相談室で、ある女子生徒が話した。
「私、家に帰らん。だってうちに居場所ないもん」。耳を傾けると「実は昨日から帰ってないんや」。コンビニの駐車場で知り合った男性の車内で一夜を明かしたらしい。今日もそうすると聞き、内心「まずいな」と思いながらもやめるよう注意はしない。
女子生徒は母子家庭の一人娘。じっくり話を聞いていくと「母さんとケンカした。もう帰らない」と原因を話しだした。やりとりを交わした末、「家出して何が得られるの?」という問い掛けに答えたのは「お母さんの心配」。ぽろぽろと涙を流し「お母さんに私の方を向いてほしい」と本音を語った。
話の途中、母親が血相を変えて駆け込んできた。「うちの子、来ていませんか」。「うるさいわ! いるわ」。女子生徒は、なおも反抗的な態度だったが、鈴木さんには「先生、お母さんがこっち向いてくれた…」と打ち明けた。
後日、母親と面談して「内緒の話」として女子生徒の気持ちを伝えた。
鈴木さんは「“通訳”するのがスクールカウンセラーの仕事」と話す。子どもと保護者、教員の懸け橋はもちろん、子ども自身にとっての通訳だという。「子どもたち自身が自分の思いが分からなくなっていることが多い。気持ちの整理をして、言葉にすることで、反抗したり引きこもったりしかできなかった子が前向きになれたら」