旧優生保護法提訴 謝罪と補償を求める - 琉球新報(2018年2月1日)

https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-657092.html
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日本政府の人権感覚が問われている。
優生保護法に基づき、知的障がいを理由に不妊手術を強いられたのは憲法違反だとして、宮城県内の60代女性が、損害賠償を求めて政府を提訴した。
旧法が個人の尊重や幸福追求権を規定した憲法13条、法の下の平等を定めた同14条に反していることは明らかだ。
そもそも、子どもを産むか産まないか、いつ産むのか、何人産むのかを決めることは、全ての個人に保障されている権利である。国家の干渉を受けず、自由意思によって決められるべきだ。政府は裁判の行方にかかわらず、実態調査と被害者に対する謝罪、補償をすべきだ。
旧法は「不良な子孫の出生防止」を掲げて1948年に施行された。ナチス・ドイツの「断種法」の考えを取り入れた国民優生法が前身で、知的障がいや精神疾患、遺伝性疾患などを理由に本人の同意がなくても不妊手術を容認している。国の通知は身体拘束やだますことも認めていた。
日弁連によると、旧法により不妊手術を施された障がい者らは全国で約2万5千人、うち1万6500人は強制だったとされる。県内では本人の同意なしに不妊手術を行った事例が2件ある。
旧法は「障がい者差別に当たる」と指摘され、96年に差別に該当する部分を削除し「母体保護法」に改正された。政府は当時は適法だったとして、いまだに補償や救済をしていない。
日弁連が指摘するように、法が憲法に違反していれば、法としての効力を有しないので、実施当時適法であったとの主張は根拠を失う。不妊手術が国家的な人口政策を目的として実施され被害を与えた以上、被害を放置することは許されない。救済するのは当然だ。2年前には障害者差別解消法も施行されている。
問題なのは、不妊手術を受けたとされる約2万5千人の9割近くは関連資料が保存されていない可能性があることだ。共同通信の調査によると、知的障がいなどを理由に不妊手術を施されたとみられる個人名が記された資料が19道県に約2700人分現存している。各自治体を通じて早急に実態調査するよう政府に求める。
政府は国際的な批判も無視している。国連の自由権規約委員会は98年、強制不妊の対象となった被害者の補償について、日本に必要な法的措置をとるよう勧告した。国連女性差別撤廃委員会も2016年3月、強制不妊手術を受けた被害者への補償を勧告した。
しかし、政府は「当時は適法に行われていたため、補償は困難」との立場をとり続けている。同様の法律があったスウェーデンやドイツは誤りを認めて、正式に謝罪し補償を実施している。国連の勧告に向き合わない政府の姿勢は不誠実だ。