不妊手術強制 国を初提訴 宮城の女性 旧優生保護法「違憲」 - 東京新聞(2018年1月30日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201801/CK2018013002000261.html
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優生保護法(一九四八〜九六年)下で、知的障害を理由に不妊手術を強制された宮城県の六十代女性が「重大な人権侵害なのに、立法による救済措置を怠った。旧法は憲法違反だ」として、国に千百万円の損害賠償を求める訴訟を三十日、仙台地裁に起こした。旧法を巡る国家賠償請求訴訟は初めて。「憲法が保障する自己決定権や法の下の平等原則に反する」と主張する方針。 
国は「当時は適法だった」としてこれまで補償や謝罪をしていない。日弁連によると、旧法による障害者らへの不妊手術を施されたのは全国で約二万五千人、うち約一万六千五百人は強制だったとされる。
女性の弁護団は提訴後の記者会見で「全国各地で提訴の動きが広がることで問題の早期解決につながる。被害者には声を上げてほしい」と述べた。
訴状などによると、女性は五八年、口蓋(こうがい)破裂の手術の影響で障害を負った。十五歳だった七二年、宮城県内の病院で「遺伝性精神薄弱」と診断され、県優生保護審査会の決定を経て不妊手術を受けた。その後、日常的に腹痛を訴えるなど体調が悪化。縁談も子どもを産めないと分かった途端、断られるなど精神的苦痛を受けた。
旧法は障害者差別に当たると批判が強まり九六年、母体保護法に改定されたが、原告側は「改定時から被害回復が不可欠だったのは明白」と指摘。
特に二〇〇四年三月、国会で救済の必要性が議論されたことを重視。立法に必要な合理的期間の三年が経過した後も「救済しなかった過失がある」と主張している。

◆「コメント控える」加藤厚労相
優生保護法に基づき不妊手術を強制された女性の仙台地裁への提訴について、加藤勝信厚生労働相は三十日の閣議後の記者会見で「現時点で訴状が送達されておらず内容を確認していない。具体的なコメントは控えたい」と述べた。女性側は被害の実態調査を国に求めているが、調査に乗り出すかの明言は避けた。

◆強制1万6500人か 全容把握を
優生保護法下での知的障害者らへの強制不妊手術について、国を提訴した女性側は「幸福追求権としての自己決定権と、平等原則を保障した憲法に違反する」と主張している。政府は「当時は適法だった」として謝罪・補償に応じないが、子を産み育てる権利を同意なく奪った行為の非人道性が問われている。訴えに耳を傾け、全容把握と救済へ動きだすべきだ。
旧法下で知的障害や精神疾患などを理由に不妊手術を施された人は約二万五千人で、うち約一万六千五百人に対しては強制だったとされる。体調不良に長く苦しめられ、結婚の機会を奪われた人もいるが、資料が廃棄されたり、証言できる家族が死亡したりする状況もあり、実態は判然としない状況が続いている。
今回の提訴は、宮城県が昨年初めて開示した資料で、女性への手術日や「遺伝性精神薄弱」との診断が理由と確認できたことが契機という。資料は、当事者側にとって自らの「被害」を裏付ける証拠となりうる。政府は保存状況を早急に確認し、都道府県は現存分を積極開示する必要がある。
旧法下での不妊手術に関し、国際機関や日弁連は政府に謝罪や補償を要請。「(当時の)国家的な人口政策を目的としたものであり、国として適切な措置を講ずべきだ」との指摘はもっともだ。
一方、旧法の根にある「優生思想」は、二〇一六年に相模原の障害者施設で起きた殺傷事件でも表面化した。今の社会にもなお残る問題ととらえ、訴訟とは別に少なくとも実態調査はすべきだろう。当時の施策を十分に検証する姿勢が政府、社会に求められている。 (共同・戸口拓海)

<旧優生保護法> 「不良な子孫の出生防止」を掲げて1948年施行。知的障害や精神疾患、遺伝性疾患などを理由に本人の同意がなくても不妊手術を認めた。ハンセン病患者も同意に基づき手術された。53年の国の通知はやむを得ない場合、身体拘束や麻酔薬の使用、だました上での手術も容認。日弁連によると、96年の「母体保護法」への改定までに障害者らへの不妊手術は約2万5000人に行われた。同様の法律により不妊手術が行われたスウェーデンやドイツでは、国が被害者に正式に謝罪・補償している。