「指導死」、生きる力が空っぽに 第5景・教育(1―1) - 福井新聞(2018年1月28日)


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担任、副担任の厳しい指導叱責にさらされ続けた生徒は、周囲の理解、協力が得られないとの孤立感、絶望感を深め、ついに自死するに至った−。昨年3月14日、福井県池田町立池田中の当時2年生だった男子生徒が校舎から飛び降り自殺した問題で、調査報告書をまとめた第三者委員会はこう結論づけた。
「指導死」親の会共同代表の大貫隆志さん(61)=東京都=は18年前、中学2年生の次男陵平さん(当時13歳)を自宅マンションからの飛び降り自殺で失った。学校で友達からもらったお菓子を食べたことで、他の生徒と一緒に12人の教師から厳しい指導を受けた末だった。
「コップいっぱいに“生きる力”という水がたまっている。それが『お前はだめだ』と言われるたびに減る。最後の一滴まで絞られ空っぽになってしまい、『生きている価値がないんだ』と感じてしまう」。大貫さんは指導死に至るまでの子どもたちの心の揺れをこう例え、池田中のケースは「典型的だ」と話す。

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2002年3月23日未明、進学校兵庫県立伊丹高1年生、西尾健司さん(当時16歳)は、自宅近くのマンション屋上から身を投げた。校内のトイレで喫煙が見つかり、校長室で5人の教師から「特別指導」を受けてから9時間後のことだった。
「君は親も教師も裏切った。人を裏切ることが一番悪いことや」「1年に2度も処分を受けるなんてわが校始まって以来の不祥事」
同席を求められた母裕美さん(59)の前で、直立不動の健司さんを校長や学年主任らは厳しく叱責した。前年12月に続き2度目の特別指導。無期家庭謹慎を言い渡された。裕美さんが涙ぐむと、健司さんのすすり泣きが聞こえた。
前年12月の特別指導は期末試験での出来事だった。級友に答案を見せたことがカンニングと認定され、8教科が0点。7日間の家庭謹慎を受け、3学期が終わるまで反省日記を提出することが課された。
健司さんは仲の良かった弟に冷たく当たったり、物思いにふけったりするようなことが多くなっていったという。
1月の終わりごろから家でたばこを吸うようになった。学校で喫煙が見つかった直後の反省文には「ストレスがたまっていて、吸ったら、それが少し和らぐかと思った」と書き、その後、命を絶った。
裕美さんは、自分の涙が息子を苦しめたのではと悔いる一方で、「軍隊のような高圧的な指導」は間違っていると話す。「子どもなんて、周りが勝手にしている期待を、裏切って裏切って成長していくもの」だと思うからだ。

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教育評論家の武田さち子さんの調べでは、平成に入ってから昨年10月までの29年間で、指導死は73件(9件は未遂)起きている。73件目が池田中の事件だという。
池田中や大貫さん、西尾さんのケースをはじめ、指導をきっかけに命を絶つのは圧倒的に男子が多い。
「思春期の男の子って、すぐ溶ける氷のような存在。普通ではあり得ない。死を選ぶっていうのは。でも、『なぜ』に対する答えはない。生きる死ぬは紙一重やから」
西尾裕美さんはこう話し、両の手で氷を優しく包み込むしぐさをみせ、「子どもたちは大切な氷」という気持ちで教師は接してほしいと涙を浮かべた。

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教育県を自認する福井県で起きた「指導死」は、全国に衝撃を与えた。学校や子どもたちの現状を探る。