(余録)夏子は14歳の中学生… - 毎日新聞(2018年1月15日)

https://mainichi.jp/articles/20180115/ddm/001/070/173000c
http://archive.is/2018.01.15-015258/https://mainichi.jp/articles/20180115/ddm/001/070/173000c

夏子は14歳の中学生。学校には居場所がない。出会ったのは一つ年上の月島。2人は長い時間をともにし、傷つき、悩みながら成長していく。人気バンド「SEKAI NO OWARI」(世界の終わり)のメンバー、藤崎彩織(さおり)さんの小説「ふたご」だ。
初めての作品があす発表の直木賞にノミネートされ、若者によく読まれている。夏子たちがバンドを結成してライブを開く。藤崎さんの人生と重ねる読者も多い。
夏子は小学生の時にひどいいじめに遭う。藤崎さんは雑誌のインタビューで話している。「すごく悲しい過去がたくさんある。靴に画びょうを入れられたりとか、ランドセルに死ねって書かれたり……」。ボーカルのFukase(深瀬)さんも学校になじめず、自身の発達障害にも苦しんだ。彼が月島のモデルだろう。
彼らは世界が終わったように、何もないどん底から音楽を始めた。その思いがバンド名に込められている。Fukaseさんは「(こんな自分だから)逆にそれは自分は劣等生だと思ってた奴(やつ)にも希望を与えられるものなのかもしれないし、病気で苦しい奴らにも……」と話している。藤崎さんに小説を書くよう勧めたのも彼だった。
彼女が作詞した「プレゼント」という曲がある。
いま君のいる世界が 辛(つら)くて泣きそうでも それさえも「プレゼント」だったと笑える日が必ず来る
つらい経験をしたからこそ心打つ音楽や小説を生み出せる。そのことを今、苦しみを抱えている子供たちに知ってほしい。