(筆洗)黒い袋 - 東京新聞(2018年1月6日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018010602000140.html
https://megalodon.jp/2018-0106-1103-00/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018010602000140.html

この中には
冗談が入っているわけではない
全て怒りの塊だ
だから黒い袋一つの重さは
それぞれの家で若干異なるものの
大きな違いはない
ぎゅうぎゅうに詰め込んだ怒りが
廃棄物となって固まっている
これは福島県いわき市に住む木村孝夫さん(71)の詩集『桜螢(さくらほたる)』(コールサック社)の中の一篇。「黒い袋」とは、福島第一原発の事故で汚染された土などをはぎ取って、詰め込んだ「除染袋」のことだ。
これまでに使われた袋の数は九百万超。黒い袋がそこかしこに墳墓のごとく積み上げられている異様さ。その袋に詰められた「廃棄物」が、本来は恵みをもたらす田畑の土だったことを思えば、「ぎゅうぎゅうに詰め込んだ怒り」の重さが分かるだろう。
だが、何兆円もの公金が投じられる除染作業をめぐっては、数々の不正が明らかになっている。最近も、防水のための内袋を閉めぬままにした手抜きが発覚した。染み込んだ水が漏れ出せば汚染物流出の危険がある袋が、百万にも及ぶ可能性もあるという。
除染袋の中には既にほころび、そこから芽が飛び出した袋もあるそうだ。そんな光景を木村さんは、こううたっている。
黒い袋は頑張っているものの
芽がでてくるということは
諦めが発芽し始めているのだろう
芽生えが希望ではなく諦めの象徴となる。原発事故が現出させた不条理の一つだ。

桜螢―ふくしまの連呼する声 (10周年「詩の声・詩の力」詩集)

桜螢―ふくしまの連呼する声 (10周年「詩の声・詩の力」詩集)

関連サイト)
福島除染「手抜き」 汚染土詰めた二重袋の内袋を閉めず 1000袋発見 - 東京新聞(2018年1月1日)
http://d.hatena.ne.jp/kodomo-hou21/20180101#p1