<憲法を見つめて 九条の周辺>(下)広島 戦場のリアル語り継ぐ - 東京新聞(2018年1月4日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201801/CK2018010402000124.html
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十二月初め、広島市平和記念公園そばにあるカフェ。元米海兵隊員のマイク・ヘインズ(41)は半そでのTシャツ姿になり、イラク戦争の体験を語り続けた。
民家に爆発物を仕掛けて侵入し、動くものは何でも撃てと言われた。女の子は泣き叫び、失禁する。大人は壁に押し付け、尋問した。「テロと戦うのではなかったのか。自分がやっているのがテロ行為だった」
耳を傾ける市民三十人を前に、こうも予言した。「世界に誇る日本の憲法九条が今や危うい。自衛隊が米軍と一緒に派遣され、そんな戦闘に巻き込まれる。その日は遠くない」。その後もカフェに残った若者らと談議し、「戦場のリアルを知ってもらう意義は大きい」と笑顔を見せた。
やはり広島を一九八〇年代に訪れ、九条の理念を世界に広げようと尽力した元米兵がいる。チャールズ・オーバービーだ。かつて朝鮮戦争で沖縄から出撃し、北朝鮮空爆した。広島の資料館で原爆のむごさを目の当たりにし、「九条は犠牲者の魂が戦火からよみがえった永久の真理、不死鳥だ」が口ぐせになった。
九条は戦争放棄と戦力の不保持、そして交戦権の否定をうたう。オーバービーは九条を模した修正条項が米国憲法に盛り込まれるよう精魂を傾けたが昨秋、九十一歳で亡くなった。
安全保障関連法で、自衛隊は海外での武力行使や他国軍への後方支援が可能になった。自民党が年内に目指すのは、その任務が変質した自衛隊を九条に明記する改憲案の国会発議だ。
「米国が押し付けたのは憲法というより自衛隊です」。先月、埼玉県狭山市の花岡蔚(しげる)(74)は東京・中野の劇場に講談の前座で登場。演歌を披露してから、憲法の話を切り出した。軽妙なトークで笑わせ、安倍晋三首相の向こうを張って「二〇二〇年までの自衛隊廃止。国際災害救助・復興支援協力隊サンダーバードの創設」を提唱してみせた。
東大法学部を卒業し、海外勤務もした銀行マン。退職後の一三年から平和をテーマに国内外で公演を続ける。サックスにフルート、三味線と得意の音楽を演奏し、合間に憲法のことも訴える。護憲運動に初めて参加したのは〇四年。イラクへの自衛隊派遣に抗議する市民集会で公募の実行委員に手を挙げた。「イラク派兵で九条が本当に壊されるという危機感」が駆り立てた。
以来、米国を毎年訪ね、晩年のオーバービーと交流を深めた。マイク・ヘインズの活動を知り、「オーバービーさんの遺志を継いでくれている」と頼もしく思う。
内閣府の一五年の世論調査では、自衛隊の防衛力について「縮小した方がよい」はわずか4%。「今の程度でよい」が59%で、「増強した方がよい」も29%あった。
かもがわ出版(京都)編集長で護憲派の論客、松竹伸幸(62)は「国民の多数は自衛隊が必要、大事と。ならば護憲派専守防衛の九条のもとでの自衛隊のあり方や防衛政策を探求、確立したうえで、じゃあなぜ自衛隊を九条に書いちゃいけないかという議論を広げないといけない」と説く。
元米兵らもよりどころとする九条。「米国での憲法修正は至難の業。だけど日本には九条がもうあるんですよ」と花岡は言う。「守るのは覚悟でできる。加憲されたら最後、九条という不死鳥はよみがえらない」 (文中敬称略、辻渕智之)