(筆洗)エルサレム - 東京新聞(2017年12月8日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017120802000119.html
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<この都市(まち)は名前でかくれんぼ。/イェルシャライム アル=クドゥス サレム ジェル イェル…>とうたったのは、イスラエルの国民的詩人イェフダ・アミハイ氏だ。
かくれんぼができるほど多くの名を持つ都市とは、エルサレムのこと。この街は時代により支配者により、さまざまな名をつけられてきた。同じ街を、ユダヤの人はイェルシャライムと呼び、アラブの人はアル=クドゥスと呼ぶ。
名前の多様さは、街がいかに重層的に築かれてきたかを物語る。ユダヤ王国の神殿が築かれ、イスラム預言者が昇天し、キリストが磔(はりつけ)になったとされる都市は、それゆえ、繰り返し戦場となった。
そういう歴史を繰り返さぬための国際社会の約束を破り、トランプ大統領は、イスラエルパレスチナ双方が首都だと主張するエルサレムを、「イスラエルの首都だ」と宣言した。よほど憎悪の壁を築くのが好きらしい。
アミハイ氏は、こんな詩も残している。

わたしたちが正しい場所からは
花はぜったい咲かない
…わたしたちが正しい場所は
踏みかためられて かたい
…でも 疑問と愛は
世界を掘りおこす
もぐらのように 鋤(すき)のように…
(『エルサレムの詩(うた)』村田靖子訳)

独り善がりの正義で、隣人が憎み合い、壁が築かれてきたエルサレム。その街で十七年前に生涯を閉じた詩人の、やさしく強い言葉である。