子を連れ議会「高い壁」 緒方夕佳 熊本市議に聞く - 東京新聞(2017年12月4日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201712/CK2017120402000115.html
https://megalodon.jp/2017-1205-1008-11/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201712/CK2017120402000115.html

生後7カ月の長男を抱いて熊本市議会への出席を試みた緒方夕佳市議(42)は、本紙のインタビューで「子育ての悩みが個人の問題にされる社会にメッセージを送りたかった」と語った。市議会は緒方氏を厳重注意とすることを決めたが、市議会の一連の対応は時代に逆行しているとの指摘もある。 (大野暢子)
緒方氏は十一月二十二日の市議会開会日の本会議前、長男と議場に着席。議会規則は議員以外を「傍聴人」と位置づけ、入場を認めていないことから議長らと押し問答になった。結局、緒方氏は傍聴席の友人に長男を預けたが、開会が約四十分遅れた。
他の市議からは「根回しもなくルールを破った」「授乳や世話は個人控室でできる」と批判の声が上がった。
緒方氏は、議会内託児所や防音された傍聴席の設置を求めてきたが、実現しなかったため長男との議場入場に踏み切った。議会事務局は「託児所を設けても当面は緒方氏専用になりかねず、市民の理解を得られない」と説明。緒方氏は「壁は高かった」と語る。
海外ではオーストラリア上院で五月、女性議員が初めて議場での授乳を認められた。欧州連合(EU)の欧州議会でもイタリアの女性議員が子どもと出席した例がある。
国内では、子どもの議場入場を認めた例は確認できなかったが、子連れの議員や傍聴人への配慮を始めた議会がある。
名古屋市議会と沖縄県北谷(ちゃたん)町議会は今年、議員間の話し合いで、共用控室の一部を子ども用スペースにした。福岡市議会は二〇〇四年、授乳用のカーテンがある防音の傍聴席を整備した。
国会では、衆参両院とも取材に「明確な規定はないが、子どもの入場は想定しておらず、議院運営委員会で議論する必要がある」と回答。
ただ衆院は昨年、本会議傍聴の年齢制限を「十歳以上」から「小学生以上」に緩和した。参院は議長の許可を得るなど事前手続きをすれば年齢は不問で、一二年に五歳児が傍聴した例がある。
上智大の三浦まり教授(政治学)は「問われているのは議会と社会のあり方。緒方氏への個人攻撃は論点のすり替えだ」と指摘。安倍晋三首相が少子高齢化を「国難」と表現していることを踏まえ「子育てをする人の政治参加を妨げれば、地方議員の不足にもつながる」と話した。
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緒方夕佳市議との一問一答は次の通り。

−なぜ長男を議場に連れて行ったのか。
「子育てで苦労している人たちのことが十分に知られていないと感じ、発しても消えてしまう声ではなく、私の姿を社会に見せて訴えようと思った。出産前から、議会内の託児所の設置や会議中のベビーシッター代の補助を議会事務局に相談してきた。これから議員を目指す人、子連れで傍聴する人のためでもあったが、壁は高かった」

−何が障害だったのか。
「私の主張が個人的な要望と受け取られたようだ。支持者から『傍聴したいが子連れだと難しい』と言われたので、防音の傍聴席の設置を要望しようと他会派の議員に呼び掛けたら『そもそも子連れの傍聴人を見掛けない』『議会のインターネット中継を見てもらえばいい』と言われ、断念した。出産や産後の体調不良で議会を休んだ時、議員の役割を果たせなかったこともつらかった。デンマークには、出産などで休んだ国会議員の仕事を代理議員が行う制度があり、参考にできないかと考えている」

−行動は反響を呼んだ。
「国内外から賛否の声が多く届いている。それだけ社会参加と子育ての両立への関心は高い。親がどちらもあきらめなくていい社会の実現を目指したい」

<おがた・ゆうか> 1975年生まれ。熊本県立熊本高校、東京外国語大卒。米バージニア州立ジョージメーソン大学院紛争分析・解決学部修士課程修了。NPO法人沖縄平和協力センター、国連開発計画(UNDP)イエメン事務所勤務を経て、2015年の熊本市議選に無所属で立候補し初当選。1人会派「和の会くまもと」所属。家族は夫と4歳の長女、生後7カ月の長男。