(私説・論説室から)ドイツから独立しないわけ - 東京新聞(2017年11月29日)

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スペインのカタルーニャ自治州と同様、ドイツにもかつての王国で、独自の文化を誇るバイエルン州がある。州都はビールの街ミュンヘンBMWの本社もあり、経済的に豊かだが、独立する気はなさそうだ。
両州の違いをドイツ人記者に問われたスペインの作家ムニョス・モリーナ氏(61)は、ドイツをうらやんだ。「民主的な憲法基本法)でナチスを克服した。わが国にはない、憲法による愛国主義を称賛したい」
スペインでは第二次大戦中から一九七五年まで続いたフランコ独裁政権後、議院内閣制などの民主的枠組みを定めた憲法が施行されたが、各自治州では民族主義が教え込まれた。スペインへの愛国心は育たず、州は中央政府を敵とみなし、他の州を思いやる責任感に欠ける。それが、カタルーニャ独立運動が激化した背景だ−とモリーナ氏は指摘する。
ドイツは基本法を六十回改正したが、人間の尊厳尊重をうたった第一条と、政治権力への抵抗を定めた第二〇条には手を触れてならないと規定する。ナチスの過ちを繰り返さないためだ。基本法の理念を共有していることで、国としての一体感が強まっている。
ドイツと同じく当方も戦後、日本国憲法で国を造り直し、国民主権、人権の保障、戦争放棄などの価値観を保持してきた。安易に手を付けることは、絆を失い「美しい国」を壊すことにもつながりかねない。(熊倉逸男)