(余録)江戸時代の夫婦の離縁状を… - 毎日新聞(2017年11月22日) 

https://mainichi.jp/articles/20171122/ddm/001/070/115000c
http://archive.is/2017.11.22-002742/https://mainichi.jp/articles/20171122/ddm/001/070/115000c

江戸時代の夫婦の離縁状を「三くだり半」というのはご存じだろう。実はその当時、未婚の男女の関係解消を誓約する文書もあった。法制史家の高木侃(たかぎ・ただし)さんはこの手の文書を「執(しゅう)心切(しんぎ)れ一札(いっさつ)」と呼んでいる。
その著書「写真で読む三くだり半」(日本経済評論社)には、執心切れ一札も10通紹介されている。関係の解消を「執心切れつかまつり候(そうろう)」「執心決してござなく候」「執心がましき儀(ぎ)ござなく候」と誓うのが定型だったのが分かる。
目を引くのは女性が出した一札が4通もあることだ。親類や村の世話役、若者組の仲間など、仲立ちした人の名が連署されたものもある。なかには今日でいうストーカーのような「執心」を周囲があきらめさせたケースもあったろう。
京都府警が今度開設するストーカー相談支援センターでは、加害者を対象にしたカウンセリング支援にも取り組むという。民間のカウンセリング機関と提携し、原則5回までのカウンセリング料を公費で負担する「執心」対策である。
聞けば、加害者に税金を使うことには抵抗もあったこの施策だ。しかし過去のストーカー事件の教訓は、加害者への対策の必要を示すものだった。担当者は「加害者から執着心と支配意識を取り除くことが被害者を守る」と説明する。
昔も今も、つきまとわれる被害者を苦しめる「悪縁」だが、それはつきまとう方にも不幸な縁に違いない。縁がもつれれば村や町の世話役も乗り出した昔をうらやんではいられぬ現代「執心切れ」事情である。