(大弦小弦)人は、あまりにも過酷で耐えがたい体験をしたとき… - 沖縄タイムズ(2017年11月18日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/172211
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人は、あまりにも過酷で耐えがたい体験をしたとき、その体験を「瞬間冷凍」し、感覚をまひさせることで自分の身を守る。だが、その体験は新鮮な状態で丸ごと保存され、類似した音や視覚などの刺激で何度も、何年後でも「解凍」される

▼トラウマ(心の傷)のメカニズムを取材で知った。自分や近親者の生命に危険が生じるような事態に遭遇し、強い恐怖や無力を感じたとき、その体験はトラウマになる。例えば虐待などの暴力や災害、そして戦争

▼先ごろ出版された「戦争とこころ −沖縄からの提言」(沖縄タイムス社)は戦争トラウマが沖縄社会のすみずみにまで染み込む実態を告発する

▼戦時中、日本兵から半殺しの目に遭った男性はてんかんの発作が頻繁に起こり、村外への外出もままならない。当時9歳だった女性は戦闘機の音を連想させる掃除機が怖くて使えない

▼米軍基地は瞬間冷凍した傷を刺激する「装置」である。戦闘機が頭上を飛ぶたび、米兵が性犯罪を起こすたび、傷は刺激され、冷凍した記憶がよみがえる。72年間、そんな生活を強いられてきた戦争体験者の苦痛を思うとやりきれない

▼トラウマは精神疾患やDV、アルコール依存などの形で現れる。機能不全家庭を生み、世代を超え連鎖していく。こんな不条理が続く社会が他に日本のどこにあるだろうか。(高崎園子)

戦争とこころ―沖縄からの提言

戦争とこころ―沖縄からの提言