木村草太の憲法の新手(67)衆院選・国民審査を振り返る 議会の正統性損なう与党 - 沖縄タイムズ(2017年11月5日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/166002
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10月22日の衆議院議員総選挙最高裁判事国民審査について、3点指摘したい。
第一に、今回の解散は、少数議員からの国会召集要求を規定した憲法53条違反の疑いが濃厚だ。総選挙の端緒が違憲だと、選挙結果の正統性も弱くなる。
そんな中、政府・与党は、議会の正統性をさらにおとしめる提案をした。野党の質問時間の短縮を要請したのだ。政府・与党が主導する法案や政策は、野党からの厳しい質問に耐えたという事実によって、正統性を獲得する。野党の質問時間を短縮すれば、政治不信が増すだけだろう。
この点、与党の若手議員に活躍の場を与える必要があるとの声も聞こえる。しかし、若手議員の活躍を国民にアピールしたいなら、与党内で行われる法案作成に向けたプロセスを徹底的に公開すれば足りるだろう。
第二に、自公両党は、いじめ対策などのために、スクールカウンセラーソーシャルワーカー特別支援教育支援員などの相談・支援の拡充を公約集に書き込んだ。また、公明党は、学校をサポートする弁護士の導入も提案している。与党の選挙での勝利には、子どもの人権を大切にする姿勢が支持された面もあると理解すべきだろう。
ただ、学校での子どもの安全確保という点からすると、今のいじめ対策には、重要な盲点がある。福井県池田町では、教員の異常な叱責(しっせき)がきっかけと見られる自殺事件が起きた。茨城県取手市で、中学三年生の女子生徒が自殺した事案でも、教員がいじめを隠蔽(いんぺい)し、さらに自ら加担した疑いがある。
大貫隆志著・編『指導死』(高文研)にあるように、子どもを保護すべき教員が、自らいじめを主導したり、子どもを虐待したりした事案は少なくない。いじめの解決には、虐待や事件隠蔽を行った教員を処分し、子どもから切り離す措置が必要だ。自公両党が、本気で子どもの人権を守るつもりなら、「指導」や「体罰」と称する場合も含め、虐待した教員を現場から排除する仕組みの構築に取り組むべきだ。
第三に、最高裁判事の国民審査について。全国総計では、罷免投票の率は、どの裁判官も約8%だったが、沖縄県では約15%に上った。さらに、辺野古訴訟で翁長知事の埋立承認取消処分を違法とした菅野博之裁判官の県内の罷免投票の率は17%で、審査対象の裁判官の中でワーストだった。他の都道府県では、菅野裁判官の罷免投票率は他の裁判官に比べ高いわけではないから、沖縄での辺野古埋立への反対の声の根深さが示されたと言えるだろう。
しかし、県内での辺野古埋立反対の声の広がりを考えると、もっと多くの「×」がついてもおかしくない。それにもかかわらず17%にとどまるということは、菅野裁判官が辺野古訴訟に関与したことが十分に伝わっていなかったのではないかとも思える。
実際、菅野裁判官は、国民審査の公報で、「関与した主要な裁判」の欄に辺野古訴訟を挙げていなかった。国民審査を有意義なものにするには、メディアがもっと個々の裁判官が関わった裁判について検証する必要がある。(首都大学東京教授、憲法学者

=第1、第3日曜日に掲載します。