(余録)人口減少や車離れが言われるが… - 毎日新聞(2017年11月5日)

https://mainichi.jp/articles/20171105/ddm/001/070/088000c
http://archive.is/2017.11.05-083648/http://mainichi.jp/articles/20171105/ddm/001/070/088000c

人口減少や車離れが言われるが、日本の自動車保有台数は伸び続けている。大型店舗が郊外にできて中心部が空洞化している地方では、車がないと仕事も買い物も難しくなった。
「現金がない、仕事をしていない、保証人がいない。そんな人は20万円の中古車でもローンを組めない」。刑務所からの出所者やひきこもりの若者たちはその典型だ。静岡市で困窮者の自立や更生を支援している団体の代表(53)は言う。
その彼が、自動車整備工場を経営する萩山嘉久さんと出会ったのは13年前のことだ。「月5000円でいいよ」。保証人がいなくても中古車を安く売ってくれた。夜中までよく仕事をしていた。車が故障して困っているとすぐに来てくれた。
今年6月の夜、彼は少年院を退院したばかりの若者と萩山さんを待っていた。深夜になっても連絡がない。東名高速道路で事故に遭い、奥さんと亡くなったと聞いたときにはあまりのショックで目の前が真っ暗になった。
事故から約5カ月後の先月末、萩山さんの車をあおり、追い越し車線で停車させて事故を誘発した男が起訴された。パーキングエリアで萩山さんから注意されたことに腹を立てたという。検察は量刑の重い危険運転致死傷罪を適用した。
「誰に対しても優しかった。言葉を荒らげるのを見たことがない」と団体代表は言う。「ここで働かせて」と風俗店で働く女性に泣きつかれていたのを覚えている。葬儀は萩山さんの世話になり、その人柄を慕う人であふれかえったという。