「原発」への無力・喪失感訴え アーツ前橋、前橋文学館 初の共同企画展:群馬 - 東京新聞(2017年11月4日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/list/201711/CK2017110402000162.html
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前橋市のアーツ前橋と前橋文学館で初めての共同企画展「ことばの生まれる場所」(東京新聞前橋支局など後援)が開かれ、芸術家ら三十六人の計約百六十点が並んでいる。現代美術家の河口龍夫さんは東京電力福島第一原発事故をテーマに新聞紙面などを利用した作品をアーツ前橋に出品し、原発事故と東日本大震災への無力感や喪失感を訴えかけている。 (菅原洋)
「大量被ばくと闘い作業」「東電説明 隠蔽(いんぺい)体質見え隠れ」と見出しが躍る。二〇一一年三月十七日の神戸新聞だ。神戸市出身の河口さんはこの紙面全体を白い絵の具で薄く塗り、右手をかたどった。
タイトルは「失語の祈り3・17」。河口さんは原発事故後に福島県へ通い、この作品は一二年に同県いわき市立美術館で展示した。
「3・11はある意味で私を失語症の状態に追いやった。未曽有の災害をどのように捉え、向き合えばよいか。(原発事故で)未来への希望を語る言葉も失ったかのようであった」。河口さんが共同企画展へ寄せた言葉だ。
アーツ前橋の今井朋(とも)学芸員は「手をかたどることで、表現者として原点回帰したことを象徴的に示したのではないか」と指摘した。
この作品に関連するのが、原稿用紙百枚に及ぶ新作の「失語の詩」だ。ただ、各原稿用紙に文章はなく、一つずつの升目を水彩で色鮮やかに塗っている。河口さんが寄せた言葉には「失語した言葉に代わる言葉にたどり着くことができた。それは色彩による言葉なき言語である」とある。
今井学芸員は「リズミカルな音楽を感じさせる作品。言葉が根源的に有する力を表現した」とみている。
共同企画展では、前橋市出身の詩人、萩原朔太郎が未発表作品の中で夜の街を飲酒して歩く自らの様子を表現した言葉「ヒツクリコ ガツクリコ」もテーマにした。
両館には、こうした独特の表現のような個性的なアート作品、絵画、書、詩などが「言葉」という切り口から集められた。
来年一月十六日まで。両館共通券の観覧料は一般七百円、学生や六十五歳以上など三百五十円、高校生以下無料。両館とも原則水曜休館で年末年始は十二月二十八日〜一月四日に休館。