(衆院選 子どもの貧困)公的責任から逃げるな - 沖縄タイムズ(2017年10月16日)


http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/156418
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安倍晋三首相は衆院解散を表明した記者会見で、今度の解散を少子高齢化克服のための「国難突破解散」と位置付けた。大義なき解散批判をかわすように、消費増税分の使途を変更して教育に振り分け、国難を乗り越えたいと説明したのである。
少子化が問題として認識されるようになったのは、合計特殊出生率が戦後最低となった1990年の「1・57ショック」以来。その後、国は次々と少子化対策を打ち出したが、失敗続きである。いまさら国難もあるまい。
家庭の経済状況が厳しい子どもたちの教育機会を広げ「貧困の連鎖」を断つことは、消費増税を持ち出すまでもなく、政治が最優先に取り組まなければならない課題の一つだ。
今回の衆院選では多くの党が競い合うように教育無償化を掲げている。特に小学校に入学する前の保育園、幼稚園無償化に力を入れた政策が並ぶ。
教育無償化は子育て世代の負担軽減を図る目的がある。就学前の貧困は就学期の貧困よりも将来に影響するという研究結果もあり、子どもの貧困対策としての重要性も指摘される。
教育の大切さはいうまでもない。無償化の動きに異論を唱える人もいないだろう。
ただ財源を消費増税に求めれば、予定していた財政再建は遠のき、若い世代にツケを回すことになる。歳出削減などで捻出するという野党案も、その道筋は不透明だ。

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親の教育費負担を和らげる教育無償化は、沖縄選挙区でも関心が高い。
全国の子どもの貧困率13・9%に対し、沖縄は29・9%と深刻。家庭の経済状況が学力や希望格差を生むなど、構造的に不利な立場に立たされている子が多い。
県の調査で、保護者の14・2%が子どもが小学校に上がった時点で既に経済的理由から将来の大学進学は難しいと回答していたことには胸が痛んだ。
高校生を対象にした調査では「家計が苦しくて進学すべきか悩んでいる。親に無理させてまで夢をかなえたいのかどうかも分からない」という切実な声もあった。
状況があまりに厳しく国の対応を待っていられないと、県独自の給付型奨学金制度など対策が進むが、立候補者には、自治体任せにせず「ナショナル・ミニマム」を機能させる議論を求めたい。

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子どもの貧困対策として県内では、温かい食事を提供する子ども食堂や進学を後押しする無料の学習塾、企業による寄付などが広がっている。いずれも「地域の子どもたちのために」という思いに突き動かされた草の根的取り組みだ。
志を持った民間の活動はもちろん重要。しかし貧困の連鎖を断ち切る支援策は、本来政府の責任で安定的に提供すべきである。
政治家の仕事は未来をつくることだ。未来の主役となる子どもたちの貧困対策は待ったなしである。