社説 福島集団訴訟 国は責任を直視せよ - 信濃毎日新聞(2017年10月11日)

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まっとうな判断だ。
東京電力福島第1原発事故の被害者約3800人が、国と東電に損害賠償を求めた訴訟の判決で、福島地裁は国と東電双方の責任を認め、約2900人に5億円を支払うよう命じた。
原発事故の被害者による集団訴訟は、全国各地で30件ほど起こされている。福島地裁の訴訟では、事故後も避難せず自宅で暮らしてきた福島県の人たちが原告の中心で、宮城、茨城、栃木各県の住民も加わっている。
判決は3件目。3月の前橋地裁は今回と同様に国の過失を明確に認定した。9月の千葉地裁は国の責任は認めなかった。
津波を予見できたか、が争われた。政府機関が2002年に公表した地震予測の長期評価に基づき、東電が08年に試算したところ津波が海面から10メートルの原発敷地を上回るとの結果が出た。
福島地裁は判決で、国が長期評価を基にシミュレーションしていれば「最大15・7メートルの津波を予見可能だった」と断じた。さらに、東電に対策を命じていたら事故は回避可能だったとし「規制権限の不行使は著しく合理性を欠いた」と厳しく批判している。
長期評価は確かな知見ではなく、東電に命じる権限もなかったとする国側の反論を一蹴した。
原告側は放射線量を事故前の水準に戻す「原状回復」を求め、実現するまで1人月5万円の慰謝料を請求。判決は原状回復の訴えは退けた。前橋地裁千葉地裁が認定した「ふるさと喪失」への慰謝料も、既に支払われた賠償に含まれるとして却下している。
ただ、2件の判決に続いて、今回も国の指針に沿って東電が支払っている慰謝料を上回る賠償を命じている。現在の指針は加害者側が決めた枠組みであり、その範囲で解決できない損害がいかに大きいかを示している。
住宅や仕事を失い、人間関係を断たれた。避難先では子どもがいじめに遭い、体調を崩す大人も少なくない。年間被ばく線量の限度は20ミリシーベルトに引き上げられ、その“異常値”を当然の目安のようにして国は避難区域を解除し、慰謝料や住宅無償提供を打ち切る。健康管理にさえ、国と東電は責任を持とうとしない。被害者が置かれている現状である。
国と東電は支援や賠償のあり方の見直しこそ急ぐべきだ。原発事故は起きないと「安全神話」を吹聴しておきながら、法廷で「想定外だった」と強弁し、責任を回避するのではあまりに見苦しい。