9・25沖縄シンポジウム ヤマトンチュの選択−問われる責任、その果たし方 - 琉球新報(2016年9月30日)

https://ryukyushimpo.jp/news/entry-378490.html
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【東京】沖縄の米軍基地を日本本土に引き取るべきかどうかなどを問う「9・25沖縄シンポジウム ヤマトンチュの選択−問われる責任、その果たし方」(同実行委員会主催)が25日、東京都千代田区東京しごとセンター講堂で開かれた。
このシンポは昨年9月、沖縄の自己決定権をテーマにした議論から始まり、今回で4回目。引き取り論の是非を巡る本格的な討議は都内では初めてとなる。
本土への基地引き取り論者の高橋哲哉東京大学大学院教授と引き取り論に否定的なジャーナリストの成澤宗男さんが対論した。200人以上が参加し、熱心に耳を傾けた。

高橋哲哉氏(東京大大学院教授) 「安保解消」まで本土に
【冒頭発言】
沖縄への基地集中、辺野古基地問題は非常に厳しい。基地引き取り論は私自身、日米安保体制に反対であること、基地集中が構造的差別であることも前提だ。現在の沖縄の差別的状況は、薩摩侵略あるいは琉球併合から続く歴史的な沖縄差別の現在的な在り方だ。
基地引き取り論は、安保廃止だけでは沖縄から出てきた県外移設論に応答し切れないと考えた結果だ。理由の一つは、各種世論調査で国民の圧倒的多数、最近では9割近くが安保支持だ。昨年の調査では私を含め「解消すべき」はわずか2%。この状況で安保を解消する政府ができるには極めて時間がかかる。一方で、今の体制は沖縄を犠牲にしてのみ成り立つ。
政治もメディアも「安保維持支持」であれば、少なくとも私たちは安保解消までは沖縄の米軍基地を引き取るべきだ。在沖米軍基地は原理的には本来、本土に置かれるべきだ。新・旧安保とも沖縄選出国会議員が1人もいない中で成立・改定され今日に至っている。安保を政治的に選択してきた本土の力で沖縄への基地集中を変えるべきだ。
辺野古問題で日米政府は「辺野古が唯一」と言っている。これに対し基地引き取りを打ち出せば「唯一ではない」と反論できる。それは辺野古の闘い、安保反対いずれとも矛盾しない。日米政府の言い分を崩す意味でも本土への引き取りを市民から示し、政府に真剣に検討させる選択肢があるはずだ。
日本政府は本土で反対が起きることを口実に沖縄に基地を押し込めてきた。逆に本土が受け入れるとなれば選択肢が増える。そうすれば、普天間返還合意以降の混迷の20年はなかったかもしれない。辺野古を阻止できた場合、日米政府は普天間を固定化すると言う。その時に本土で引き取るとなれば少なくとも普天間は返還される。
[高橋氏への反論 成澤宗男氏]どの県にも基地はいらない
私たちにとって責任とは何か。それは、私らの子どもたちに米軍のない日本にすることだ。高橋さんは「安保への当事者意識を持たせる」と言うが、多くの米軍基地を抱える神奈川県でさえ保守王国だ。本当に当事者意識を持っている人は少ない。基地がある自治体でさえそうなのに、日本にあまねく基地を置くことで当事者意識が広がるのはいつになるのか。そんな時間があるなら「安保をなくして米軍基地は出て行け」と言うことが優先だ。
沖縄では自衛隊が強化されている。これからもそうだろう。米軍基地を引き取れとは言うが、自衛隊のそれは聞いたことがない。自衛隊はいいのか。そうではないはずだ。米軍であれ、自衛隊であれ、基地はいらない。どんなに状況が苦しくても「あなたの県はゼロなので基地を置きなさい」とは言ってはいけない。どこにも人殺しの基地はいらない。それを貫く以外に選択肢はない。安保の枠をいったん認め、安保をなくすというのはあり得ない。原則は、いらない物はいらない、あっていけない物はあっていけないのだ。だから安保撤廃まで歯を食いしばって頑張るしかない。
米軍ジェット機事故があった宮森小を訪れると心が痛む。しかし日本でも同じような事故があった。人の生き死にに差別はない。
基地引き取り論は戦争に対する意識の後退だ。今一番直面しているのは「日本国憲法を持っているから私らは素晴らしい」ではなく、戦争への加害の側面だ。日本から出撃した米軍機が世界中で戦争を起こしている。私たちの税金で米軍の戦争に加担している。それを知れば、基地をどこが引き受けるかは意味をなさない。
日本の植民地主義と言うが、根源は米国の植民地主義だ。沖縄の米軍基地の集中、人権侵害はその結果だ。植民地主義の問題は米国と日本の間にも存在する。日本と沖縄の一方的問題ではない。それを打破するには日本と沖縄が共通の敵と闘うしかない。なぜそこに分断を持ち込むのか。基地引き取りは米国に向かって言うべきだ。共に手を携え、日本から基地を持って行けと。