(松尾貴史のちょっと違和感)安倍首相が解散の「ご意向」 命名「わが逃走解散」に1票! - 毎日新聞(2017年9月24日)

https://mainichi.jp/articles/20170924/ddv/010/070/005000c
http://archive.is/2017.09.24-003509/https://mainichi.jp/articles/20170924/ddv/010/070/005000c


下村博文文部科学大臣や、甘利明経済産業大臣の説明、弁解がいつ聞けるものかと心待ちにしていたら、衆議院を解散する安倍晋三総理の「ご意向」が固まったのだという。
国家予算700億円、つまり税金を投入して総選挙を行い、自身にかかる森友疑惑、加計疑惑をかわす「ご意向」なのだろうか。「バカヤロー解散」「郵政解散」など、解散には名前がつけられる習わしがあるようだが、今回はさしずめ「もりかけ解散」だろうか。「相手はザルだ、丼だ、早く喰(く)わなきゃ伸びちまう、手繰れ! 手繰れ!」という感じだ。
数々の疑惑について、「丁寧な説明をいたします」と言った舌の根も乾かぬうち、野党による国会の召集の要求にも応じない憲法違反を続けながら、己が延命のために解散をするという「エゴイズム解散」でもある。招致時に買収があったことが国際的に明らかにされた巨大な体育祭(=2020年東京五輪パラリンピック)の本番まで総理でいたいというエゴもあるのだろうか。
低下した支持率の回復を狙って内閣改造を行い、「仕事人内閣」と自画自賛したばかりなのに、仕事をさせないで解散に踏み切ろうというのだから、何をしているのか意味がわからない。「仕事人仕事せぬ間解散」か。
北朝鮮が太平洋にミサイルを連発することで恐怖を煽(あお)り、自身の“軍拡路線”が正しいと訴える「ミサイル便乗解散」か。脅威だ、脅威だと煽りながら、まさか日本中を「こんな人たちに負けるわけにはいかないんです!」と、応援演説で走り回るようなことはできないだろう。本当に危機なのだとしたら、今そんなことをやっている場合ではない。それともJアラートを鳴らすから大丈夫なのか。
安倍氏が選挙に強いように見えるのは、選挙期間中、与党についてのマイナスになりそうな情報を伝えさせないようマスコミにプレッシャーをかけるのがうまいから、という要素もあるが、消費増税を延期するという「新しい判断をいたしました」とうそぶける厚顔も功を奏しているかもしれない。しかし今回はもうその手は使えそうにない。増税するがその分を教育や社会保障に充てるという印象戦法のようで、これがうまくいくのかどうか。そもそも、その分野への予算は、アベノミクスで成長した分を使うと言っていたのは何だったのか。つまりは、経済政策に失敗したと懺悔(ざんげ)したことになるのか。
これほど早く解散しようとは思っていなかったのに、最大野党・民進党の代表と執行部が刷新されても同党の支持率が低迷し、目障りだった山尾志桜里議員のオウンゴール・スキャンダルもあっての「渡りに船解散」か。しかしこれでは、何のために解散するのかという大義名分がない、ただの国会の私物化だ。テレビでコメンテーターが「解散に大義が必要だとは法律に書いていない」と言っていたが、書くまでもない当然の問題だということがわからないのだろうか。任期中に国民が選んだ議員の資格を全消去するのに大義がなくてどうする。
ひょっとすると、民進党前原誠司代表が「共産党との選挙協力の見直し」とかたくなに主張していることで「ご意向」が固まったのかもしれない。この前原氏の言動は、安倍氏に「民進党共産党とさえ組まなければ解散ありだな」と思わせるブラフで、ふたを開ければしっかり野党共闘路線で戦うという術を、例えば自由党小沢一郎共同代表から入れ知恵されたのでは、などと空想するのはSF思考が過ぎるか。
10月末の会計検査院の検査発表で何かが露呈する前に逃げ切る「逃亡解散」なのであれば、まるで犯罪心理学の分野の話になってくる。有田芳生参院議員が命名した「わが逃走解散」が出色だ。意味合いも、そして似た音の書物の題名にもかかっていて、何とも秀逸ではないか。(放送タレント、イラストも)