(余録)大阪の出版社、新風書房は… - 毎日新聞(2017年9月25日)

https://mainichi.jp/articles/20170925/ddm/001/070/213000c
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大阪の出版社、新風書房(しんぷうしょぼう)は全国から戦争体験を募集し、「孫たちへの証言」のタイトルで毎年刊行している。1988年の創刊から約2万編の応募があり、約2400編を採用した。
見聞きしたことをありのままに記録し伝えることが戦争抑止力になる。社長の福山琢磨(ふくやま・たくま)さんはその思いから1人で全ての作品を読み、掲載作を選んできた。しかし83歳となり、先月発行した最新刊では36歳の上野真悟(うえの・しんご)さんを後継者として編集メンバーに加えた。
筆者に人名、地名、日時を問い合わせて史実と矛盾がないかを調べる。戦後生まれにとって容易な作業ではない。上野さんには広島で被爆した祖母がいたが、話を詳しく聞かないまま亡くなった。同じ悔いを残さないよう原稿に目を通す日々が続く。
体験者が書き残したものを家族がまとめたり聞き書きしたりして投稿するケースが増えている。5歳で孤児となった72歳男性は旧ソ連の収容所で戦病死した父の足跡をたどった手記を寄せた。曽祖母から戦死した夫の思い出を聞いて応募した小学6年生もいる。
戦後72年がたち、身をもって平和を訴えてきた世代の訃報が今夏も相次いだ。国は語り部の育成事業を始め、広島と長崎両市は被爆体験を継承する人の養成に取り組む。
福山さんは応募数が減り、出版をやめようと思ったこともある。それでも上野さんへのバトンタッチを決めたのは、肉親の体験を次世代に伝えたいという家族があるからだ。伝承者がいる限り、庶民の戦争証言は語り継がれる。

孫たちへの証言第30集 « 自分史づくりの老舗【株式会社新風書房
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