(余録)真珠湾攻撃の直前… - 毎日新聞(2017年9月20日)

https://mainichi.jp/articles/20170920/ddm/001/070/162000c
http://archive.is/2017.09.21-013058/https://mainichi.jp/articles/20170920/ddm/001/070/162000c

真珠湾攻撃の直前、日本は絶望から戦争を始めようとしていると東京の空気を伝える米国外交官に国務省の極東担当ホーンベックが反論した。「歴史上、絶望から戦争を始めた国が一つでもあったら言ってみろ」
だが米国の石油禁輸下の日本の為政者(いせいしゃ)は備蓄の枯渇(こかつ)という将来の絶望的悲観論と、今ならアジアで軍事的に優位という短期的楽観論を両にらみして奇襲に賭けた。禁輸の効果を疑わなかったホーンベックには信じられぬ判断であった。
北朝鮮と米国の緊張でこの手の史実がよく論議の引き合いに出される昨今だ。しかしその国際情勢の緊迫のさなか、日本の為政者が長期の悲観論と短期の楽観論を勘案(かんあん)して企図したのは衆院の早期解散という野党への「奇襲」だった。
てんびんにかけられた悲観論と楽観論は国益や国民の幸福・安全の話ではない。国会で森友・加計(かけ)問題が追及され、野党の態勢が整う将来は厳しいが、野党の失態などで内閣支持率を戻した今なら選挙に勝てるとの党利党略(とうりとうりゃく)である。
突然吹き出した解散風だが、すでに政界では「10月22日投開票」という選挙の日程が既定事実として語られている。野党からの「疑惑隠し解散」「自己保身解散」……つまりは「大義なき解散」という批判続出も計算済みに違いない。
大義」がどうあれ、選挙の結果ですべてがリセットできるというのが早期解散論の楽観的読みである。民意に何を問うのかも不明なこの解散・総選挙、最大の争点は首相の「短期の楽観論」の当否か。