木村草太の憲法の新手(63)「部活動とコーチ」 法を守らない指導は虐待 - 沖縄タイムズ(2017年9月3日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/136870
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アメリカ、コロラド州デンバー公立学校で、チアリーディングの練習中に、コーチが女子生徒に開脚を強要する動画が公になり、大問題になっている。女子生徒は、脚や股関節を負傷した。地元警察は、児童虐待の疑いで捜査を開始した。コーチは解任され、校長ら5人の学校幹部は捜査の妨げにならないよう8月23日から休職を命じられたという。
コーチの行動は論外だが、デンバーでの対応からは学ぶべきことも大きい。
日本の部活動でも、「指導」と称する虐待、暴行、傷害がしばしばある。8月23日には、杉並区の特別支援学校で、バスケ部のペナルティーとして校舎周囲を走るよう指示された生徒が、21周(約10キロ)走ったところで、熱中症になり、意識不明の重体となる事件が起きた。
この件について、顧問が解任されたとか、警察が捜査を開始したという報道は、今のところなされていない。しかし、熱中症防止の体制を整備しないまま炎天下を走らせるのは、虐待と言われても仕方がない。デンバーの女子生徒のけがに比べても、意識不明の重体という結果は、決して軽くない。警察は、顧問による業務上過失致傷について、十分に捜査し、必要に応じて起訴すべきだろう。
また、デンバー公立学校が校長らを休職させた対応も重要だ。2015年11月10日、茨城県取手市で市立中学3年の女子生徒が自殺した。校長や教育委員会は、自殺の事実を隠そうとしたという。責任を追及される側の人間が調査に関われば、隠蔽(いんぺい)しようとするのも当然だ。学校での事件・事故を調査する場合には、警察や第三者委員会が調査を担い、隠蔽する動機を持つ者は排除する必要がある。
さらに、コーチの個人責任を問う姿勢も重要だろう。日本の部活動では、虐待・暴行・傷害を行った顧問が、個人的に刑事責任や民事責任を問われるケースはごくまれだが、注目すべき裁判例がある。
09年8月、大分県の県立高校で、夏休みの剣道部の練習中に、ある生徒が熱中症となり、倒れるなどの異常行動を示した。しかし、顧問は「演技じゃろう」などといって、蹴ったり、ほほをたたいたりするなどの暴行を加えた。顧問が救急車を呼ぶのも相当に遅れ、これが原因の一つとなって生徒は死亡した。
13年、大分地裁は県に損害賠償を命じ、判決は確定した。さらに、大分地裁16年12月22日判決は、顧問に対し、大分県が支払う賠償金の一部を負担するよう命じた。指導の名の下に行われる虐待を防ぐには、民事法上も顧問個人に責任を負わせる必要がある。顧問側は判決を不服として控訴をしているとのことなので、高等裁判所の判断に注目が必要だ。
デンバーでの警察の捜査や校長の休職を「アメリカ風の極端な対応だ」と感じる人もいるかもしれない。しかし、子どもへの暴力を、学校内での対応にとどめては、被害者救済、再発防止は不可能だ。
以前にこのコラムでも述べたが、学校は治外法権ではない。教育や指導は、法律の範囲内でなされなければならない。法は人々の尊厳・生命・身体の安全を守るための最低限のルールであり、法を守らない教育は虐待だ。(首都大学東京教授、憲法学者